安倍内閣支持率、第2次で最低も想定済み? 参院選にらみ安保法制急ぐと英紙分析

 ロイター、ブルームバーグ、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙といった主要海外メディアが、安倍連立内閣の支持率低下に注目した記事を相次いで発表した。安倍内閣は、現在の国会での安全保障関連法案の成立を目指しているが、4日に開かれた衆院憲法審査会では、参考人として招かれた3人の憲法学者が、そろって安保法案は違憲だとの見解を示した。安保法制について、より慎重な議論を求める声が高まっており、そのことが支持率に反映したものとみられる。支持率低下により、今後の政権運営にも影響がありそうだ。

◆現政権発足以来、最低の支持率をマーク
 上述の海外メディアがそろってソースにしているのは、日本テレビの定例世論調査だ。12~14日に実施された6月の調査では、安倍内閣の支持率は41.1%と、前回5月の調査から2.4%低下した。これは第2次安倍内閣の発足直後の2013年1月の調査以来、最低となった。

 デフレ脱却、景気回復を目指して進めている取り組みへの期待感もあり、安倍内閣は、それまでの内閣に比べれば、まずまず安定した支持率を保ってきた。ブルームバーグは、首相はこの安定性を活用して、特定秘密保護法や、武器輸出禁止原則の撤廃を含む不人気政策を押し通してきた、と語る。すなわち、安倍首相が強いリーダーシップを発揮して政権を運営する上で、支持率が支えとなってきたという見解だろう。

 しかし、この図式は危うくなってきたようだ。日本テレビの調査によると、2月の時点で51.0%あった支持率は、その後下がり続けて現在に至っている。

◆米議会で「この夏まで」と約束も、過半数が今国会での成立を望まない
 上述3メディアが支持率低下の原因と見なしているのは、安倍首相が今国会での成立を目指している安保法案である。ロイターが伝えるように、首相は、今年4月の訪米時、米議会演説で、安保法制をこの夏までに成就させると語った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、首相が米議員にした約束を実行するのに、あと数週間しか残されていない、と語る。報道によると、国会の会期を8月まで延長することも検討されているもようだ。

 ブルームバーグ、ロイターは、世論調査の結果を踏まえ、安保法案に対し、国民の間で疑念や批判の声があることを伝える。引用された日本テレビの調査では、回答者の51.7%が安保法案は憲法違反だとした。62.5%が集団的自衛権の行使に反対であり、63.7%は今国会での法案成立に反対だった。78.7%は、この法案についての内閣の説明は不十分だと感じていた。

 安保法案は、憲法違反ではないかとの議論が再燃するきっかけとなったのは、4日に開かれた衆院憲法審査会での3人の憲法学者の発言だ。ブルームバーグ、ロイターがこれに注目したほか、WSJ紙は、法案についての憲法学者の批判の内容や、政権側の反応、発言によって弁護士会の安保法案反対運動が活発化したことなどを中心に報じた。

◆国民とのギャップが生じつつある
 また、冒頭の3メディアは、日本テレビの調査が行われたのと同じ週末に、国会周辺で、安保法案に反対する大規模な抗議活動が行われたことを伝えている。主催者発表によると、この抗議活動の参加者は約2万5千人に上ったという。

 金城大学の本田雅俊特任教授(政治学)はFT紙で、「第2次安倍内閣の発足以来、首相は、自身がやりたいことではなく、やらなければならないことをずっと行ってきた」「現在、首相は、やらなければならないことではなく、自身がやりたいことをやっており、そのことで、国民との認識のギャップが生じつつある」と語っている。

◆強引に成立させた場合、さらなる支持率低下で来年の参院選に苦戦も
 海外メディアの報道によれば、安倍首相にとって、今後の見通しはあまり明るいものではないようだ。自公の連立与党は、両院で過半数を占めているため、法案成立を押し切ることはできる。しかし、国民が十分な議論なく行われたと感じれば、支持率はさらに落ち込みかねない。そうロイターは語る。多くの専門家が同様に語っていることをWSJ紙は伝えている。

 来年には参院選が控えている。有権者の反感を買った場合、自公にとっては手痛い結果になりかねない。

 しかし逆に、来年に参院選があるからこそ、それまで支持率の回復期間が得られるよう、安倍内閣は今、法案を押し通したがっている、との分析をFT紙は示している。この夏、支持率が打撃を受けることを、内閣は予想済だったというのだ。

 FT紙は、安保法制によって有権者の反感を招いた場合、首相の今後の経済改革にとってのリスクになる、との見方を記事の中心に据えている。日本年金機構の個人情報流出問題も同時期に起こり、野党にエネルギーを与えている。安倍首相はこの夏、アベノミクス「第3の矢」の一部を成す労働市場改革、規制改革も成立に持ち込みたい考えだが、それが危険にさらされているという。

Text by NewSphere 編集部