安保法制改正はアベノミクスの成否に影響する? 支持率の低下を英紙懸念
安倍内閣は、集団的自衛権の行使を可能にする改正などを含む安全保障関連の法案を、14日の臨時閣議で決定した。これを報じた海外メディアは、国民の理解獲得や隣国との関係維持に努力が必要と指摘。英紙は、大きな支持率低下を招けば、構造改革を含むアベノミクスが頓挫しかねないと警告する。
◆自衛隊の活動範囲が拡大、海外派遣が容易に
法案の内容は、大きく分けて「平和安全法制整備法」と「国際平和支援法案」の2本。
「平和安全法制整備法」は10本の法律の改正をまとめたもので、主な変更点は、以下の通り。
―「武力攻撃事態法」の改正で、日本の存立が脅かされる事態に限定しているものの、集団的自衛権の行使が可能に。
―「周辺事態法」は、「重要影響事態法」に名称が変更され、自衛隊の後方支援の地理的制限を撤廃。また米軍以外の外国軍に対しても後方支援が可能に。
―「国連平和維持活動(PKO)協力法」の改正で、武装勢力に襲われた国連職員らを自衛隊が防護する「駆け付け警護」が可能に。また、国連が統轄していない、EUなどが主導の国際平和安全活動にも参加が可能になる。
「国際平和支援法案」は、新たに設置される法で、今まで自衛隊の海外派遣には特別措置法が毎回作られていたが、恒久法を制定することで、随時の派遣が可能になる。
◆国民の理解や中韓との関係に努力が必要
閣議後に安倍首相は記者会見を行い、「不戦の誓いを将来にわたって守り続けていく」と表明。また、米国の戦争に巻き込まれることは「絶対にあり得ない」と述べた。
海外メディアは、この件で国民の意見が真っ二つに分かれていることを指摘する。ロイターは、支持者ですら憲法9条を限界まで拡大解釈したものだと述べていること、また50%が自衛隊の役割拡大について「まったく評価しない」「あまり評価しない」と回答したNHKの世論調査の結果を伝えている。
APは、上智大学の中野晃一教授の「(改定で)日本の外交力が強化される可能はあると思うが、日本の平和ブランド、平和主義の国であるというイメージが壊されるのを心配する人もいる」という発言を引用。安保法制改定のメリット・デメリットを示した形だ。
ブルームバーグは、読売新聞に10日に掲載された世論調査では、安全保障法制の整備への「反対」が41%だったのに対して、「賛成」が46%と初めて賛成派が上回ったものの、今国会での成立については48%が「反対」していることを伝え、法整備にはさらなる国民の理解が必要であると指摘している。
また、国内だけの問題ではない。APは中国外務省の華春螢・副報道局長が「日本が歴史の教訓をくみ取り、平和発展の道を堅持し、アジア地域の平和的・安定的発展への建設的な有益で建設的な貢献を行うことを望む」と述べたことを紹介。ブルームバーグは、韓国外務省の報道官が、日本の防衛政策関連の議論が「透明に」なされていくことを期待すると述べたにとどめたものの、ある韓国の市民グループは、「平和憲法を容赦なく踏みにじる」ものであり「国連の集団的安全保障の制度としての権威を台無しにする」と激しく非難していることを伝え、近隣諸国との関係維持にさらなる努力が必要であることを示唆した。
◆アベノミクスが頓挫する可能性?
経済面での懸念を表しているのがフィナンシャル・タイムズ紙(FT)だ。記事では、安倍首相が安全保障法案の改定にあまりに政治資本を費やせば、アベノミクスの三本目の矢である経済の構造改革に着手できなくなる可能性があると指摘。国際政治経済情報誌「インサイドライン」の歳川隆雄・編集長の言葉を引用して、今回の安保法案の整備で安倍内閣の支持率が10%低下する可能性があることを示唆した。
一方でFTは、支持率50%を保つために経済問題を優先させ安全保障問題には慎重な動きを見せてきた安倍首相だが、4月の統一地方選挙の結果の後押しを受けたことで、今後はさらに農業や労働市場の改革に着手した後、国民の支持を得やすい家族手当などの法案に着手し、人気の回復に努めるだろうという見方を示している。