“ごり押し主張広めるため” 安倍首相訪米で、日本が米PR会社と契約と韓国紙

 安倍首相が現地時間26日夕、アメリカのボストンに到着した。1週間の訪米で最も注目されているのが、29日の米議会上下両院合同会議での演説だ。安倍首相はこの中で、太平洋戦争の「反省」を口にすると見られているが、韓国はそれ以上の「公式な謝罪と賠償」を求めている。

 そうした中、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、韓国政府が慰安婦問題などで自国の主張を米メディアにPRするため、首都ワシントンのPR会社と契約をしたと報道。対する日本政府も、既に同様の契約を別の米PR会社と結んでいると韓国・中央日報が報じている。報道の内容が事実ならば、首相訪米の裏でアメリカを舞台にした日韓の“PR戦争”が勃発しかねない状況だ。

◆日本の狙いは「歪められた歴史観のごり押し」と韓国メディア
 WSJによれば、韓国政府はワシントンDCを拠点とするあるPR会社と契約。社名の非公開を条件にWSJに答えた同社幹部によれば、韓国政府に求められている仕事は、日韓で異なる歴史観において韓国側の立場を代弁することだという。具体的には「安倍氏の演説を聴いた記者団に、彼が言わなかったことを理解させる」ことがミッションだ、とこの幹部は述べている。

 WSJの報道から約1週間後の27日、今度は中央日報が「日本政府が安倍首相の米国訪問及び米議会演説に合わせて広報機関を雇用したことが確認された」とする記事を掲載。それによれば、米司法省のウェブサイトの「外国ロビー情報公開資料」で、日本政府が駐米日本大使館を通じてワシントンD.Cの政策諮問機関「ダシェル・グループ」と今月16日に雇用契約をしたことが確認されたという。契約書には、「ダシェル・グループ」は、日本の利益に影響を及ぼす政治・政策的な問題でアドバイスや支援活動を行うと記されている、と同紙は報じている。

 両国政府はこれらについてコメントしていない。WSJは、韓国がこの“PR戦争”で重点を置くのは、慰安婦問題を巡る長年の論争で自国の立場を主張することだと見る。一方、日本側の契約には「歪められた歴史観」と「ごり押し主張」を巧妙に広めようとする意図があるというのが、韓国メディアの論調だという(中央日報)。

◆“元慰安婦”は安倍首相に「訪米中の謝罪と賠償」を要求
 WSJは、安倍首相の訪米に合わせて5つの注目点を挙げているが、TPP交渉の行方や防衛問題と共に、「首相は(韓国の要求通りに)謝罪するか」「(韓国系米国人の)抗議行動はどれくらい激しくなるか」と、韓国絡みで2項目を割いている。前者については、先週のインドネシア・バンドン会議での演説で、安倍首相は韓国が求める「apology」という謝罪を表す言葉を使わなかったと指摘。そのため、韓国系住民は「『慰安婦』問題をめぐって一層の償いを求める見通しだ」とし、連邦議会議事堂周辺などで抗議行動が繰り広げられると見ている。

 一方、英紙・ガーディアンは、安倍首相の訪米に合わせて元慰安婦を名乗る89歳の韓国人女性が記者会見し、「謝罪と賠償」を求めたと報じている。同紙がまとめたそのキム・ボクドンさんの主張は次のようなものだ。
・14歳の時に「服飾工場の職を世話する」と騙され、強制連行された。
・広東省の慰安所を皮切りに香港と東南アジアの数ヶ国で1日15人以上の日本兵の相手をさせられた。
・命令に背くと暴力を振るわれた。今も痛み止めの薬を飲んでいる。
・戦後はシンガポールで2年間、日本軍の病院で看護師として働いた。

 キムさんは、こうした体験を持つ自身の存在こそが、慰安婦が実在した証拠だと主張。「私は尊厳と名誉(の回復)を必要としている」と、安倍首相の訪米中の謝罪と、既に約60人にまで減ったという元慰安婦たちへの賠償を求めた。

◆韓国政府の本音は「反省以上の言葉」で手打ちか?
 また、ガーディアンによれば、25人の米国会議員が今週、駐米日本大使に宛てた手紙を通じて、1995年の村山富市首相と2005年の小泉純一郎首相による「公式謝罪」を「正式に繰り返し認める」ことを安倍首相に求めたという。朝鮮日報も、民主党ベテランのチャールズ・ランゲル下院議員による『性的奴隷、安倍首相は米演説で謝罪すべき』という寄稿を掲載している。

 同議員は、日本に謝罪を求めたいわゆる「慰安婦決議案」(2007年に米下院で可決)を、コリアン・ロビーの支持を受けていると言われるマイク・ホンダ議員らと共同で提案した一人だ。ランゲル議員は寄稿文で、朝鮮戦争での従軍経験から、「自分は戦争は筆舌に尽くしがたい苦しみと痛みを人々に与えることを十分に知っている」とし、「安倍首相は今、『最も親愛なる友人』と誇らしげに呼ぶ韓国国民の傷を癒すことで、歴史を進展させるチャンスを手にしているのだ」と結んでいる。

 韓国メディアはこうした一連の報道を通じ、安倍首相から何とか「謝罪と賠償」の言葉を引き出そうとしているようだ。しかし、WSJは最新の論説記事で、韓国の“対日歴史カード”の「持ち札」が弱くなっていると指摘する。韓国政府も「安倍首相の表現をめぐる懸念を米政府が共有しない」と、そのことを自覚しているという。そのため、今回の米議会演説で、安倍首相からもし「反省以上の言葉」が出れば、歴史問題で「前向きに対応する」姿勢を示し始めていると同紙は指摘している。

Text by NewSphere 編集部