教科書の領土記述増、「右翼の陰謀」と中国メディア批判 「バランス良い」評価の一部日本紙と対照的

 文科省は6日、新たな検定基準(2014年告示)を適用した、中学校の教科書検定の結果を公表した。対象の教科書は、2016年度から使用される。

 社会科の教科書20点すべてに、沖縄県の尖閣諸島と島根県の竹島が記述され、大半が「我が国固有の領土」と明記した。また一部の教科書には「政府の統一的な見解に基づいた記述がされていない」という意見がつき、教科書会社は修正した。

◆中国・韓国は非難
 韓国の外交部報道官は6日、竹島(韓国名:独島)は日本の領土と記述した教科書が合格したことを、激しく非難する声明を発表。外交部の趙太庸(チョ・テヨン)第1次官は同日、別所浩郎駐韓日本大使を呼び、強く抗議した。対して日本政府は、抗議は「受け入れられない」と反論している。
 
 中国国営新華社通信は、南京事件などについて教科書の記述が変わったことを挙げ、歴史修正主義が露わになったと報じた。今回の修正は、日本の右翼政治関係者たちの厄介な策略だ、とまで報じている。政府見解が圧力となり、教科書の内容が極端に右寄りで保守的なものになるのでは、という藤田英典・共栄大学教育学部長の懸念を取り上げた。

◆バランスが良くなった、と国内紙
 これに対し、読売新聞と産経新聞は今回の変化を評価している。

 読売は社説で、「中学校で来春から使う教科書の検定結果は、妥当な内容だ」と評価。政府の統一見解を反映させるのは、「バランスの取れた歴史認識を育むために、必要な措置」で、「教育は内政問題」と位置づけた。
 
 産経は、「日本の領土や歴史について他国の主張ばかり強調する偏向した内容の是正が進んだことを評価したい」と主張。読売と同じく、政府見解を踏まえることで、日本の教科書としてバランスが良くなった、とみている。

◆教科書とは?
 なぜ、日本の教科書の内容に隣国が抗議するのか?

 米スタンフォード大学のキャスリーン・ウッズ・マサルスキー氏は、2001年11月の論文で、著名な識者らの意見を取り上げている。歴史家のローラ・ハイン氏、マーク・セルデン氏らは他国が日本の教科書の内容について騒ぐのは、「歴史と国の人々に関する教科書は、多くの社会で、その時代の愛国心を形づくる『公式な』見解を示しているから」で、「人々が教科書の内容について争うのは、教育が明白に未来に繋がるものだからだ。社会の隅々に浸透し、国の行方を決めるものだからだ」と理由を説明した。また、彼らは、教科書に書かれている内容は、「国のお墨付きの思想を伝え、このうえない典拠ともなる」と指摘した。  

 さらに、日本の歴史に詳しいリチャード・H・マイ二ア氏は、「歴史家としての経験から、教科書が生徒たちの考えに大きな影響を及ぼすのを事あるごとに目の当たりにしてきた」と教科書の重要性について述べたそうだ。

◆隣国との関係を理解するには、近代史が重要
 英BBCのニュースレポーター大井真理子氏は、2013年3月14日に掲載されたコラムで、日本人が近隣諸国の歴史問題に関する反発を理解できない理由は、歴史教育にあると指摘した。日本と他国の関係を理解するには、近代史の教育にもっと多くの時間を割くべきだ、との主張だ。実際、教科書では、旧日本軍の中国侵攻、韓国の従軍慰安婦についての記述はわずかだという。さらに、広島・長崎への原爆投下についても内容が薄い。

 対して、中国では日本の戦争中の行為について詳細に学ぶという。韓国も近代の歴史に重点を置いている。このような違いが、各国の歴史に対する認識を隔たったものにしている、とみている。ただし、中国の教育は反日に偏りすぎではと安倍首相などは懸念を示していることにも、批判的文脈の中でだが、ふれている。

Text by NewSphere 編集部