米国、“強い日本”を歓迎 でも安倍首相の思想は警戒 70周年談話が重要と米識者
人質事件後に進められる日本の安全保障を巡る動きに対して、海外メディアが各自の考察を述べている。
◆軍事的役割拡大を目指す日本
アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所のオースリン氏は、安倍首相の人質事件への反応は、首相の軍事的野心の広い文脈で見るべきと主張。イスラム過激派テロに加えて、北朝鮮の脅威、中国の台頭、そしてアメリカの同盟国へのコミットメントの不確実性を挙げて、日本が安全保障について自問せざるを得ない状況になっていると指摘する(米国防情報サイト『ディフェンス・ワン』)。
ブルームバーグは、昨年の、防衛関連の武器輸出規制の緩和、集団的自衛権を容認する憲法の再解釈、4月から国会で審議される集団的自衛権関連法案、さらに、中谷元防衛相の、海および空のパトロールを南シナ海まで拡大することを検討しているという発言を挙げ、日本が世界での軍事的な役割の拡大に向けて着々と歩を進めていることを伝えている。
◆アメリカ「強い日本」を歓迎
ドイツのドイチェ・ヴェレ(DW)は、人質事件によって、日本は海外において外交的弱点があるだけでなく、情報収集を外国の諜報機関にあまりに大きく依存していることが明らかになった、と指摘する。インタビューに答えたロンドン大学東洋アフリカ学院で日本政治の上級講師を務めるクリスティン・スラック氏は、世界最強のインテリジェンス能力を有するアメリカとの関係強化が予想されるとする。今年の日米防衛ガイドライン改訂により、アメリカが望む日本の軍事的コミットメント増大や軍隊の「相互運用性」に向けた動きなど、2国間の軍事協力関係が強化されるとみている。
オースリン氏は、強い日本は、長らくアメリカ政府の長期的な目標であった、と述べる。アメリカ政府が求めているのは、防衛を主に独自で行え、経験も豊富で、地域の安定のためにアメリカと価値観を共有できる同盟国だとし、日本の動きは歓迎しているとする。その一方でオバマ政権内には、安倍首相の思想に対して不信感を持つ者がおり、日本がより独立したときに地域で果たす役割について懸念している。民主党政権後に安倍首相が政権の座についたことでアメリカ政府は長期的に関係性の持てるパートナーを得たが、夏に発表される戦後70周年談話をめぐり、今年は非常にセンシティブな年になるだろうと述べている。
◆人質救助へは長い道のり
自衛隊による人質救助に関しては懐疑的な意見が挙がった。スラック氏は、安倍首相が人質救助任務をできるよう憲法を再解釈したいと考えているが、世論は二分されており、新たな解釈は、自衛隊は東アジア地域でのみ展開されるとした、昨年の夏の安倍首相の約束を越えて一歩を踏み出すことになる、と指摘。再解釈で可能になったとしても、日本が正常な救助任務を遂行できるかどうかは別問題で、アメリカですら、その軍事力すべてをもってしても、この地域で部分的な成功しか収めていないとする。
オースリン氏も、安倍首相の「野望達成」には長い道のりが待っているとする。国会で安全保障政策を改定する法案が可決されたとしても、対テロ作戦を遂行できるだけの能力を開発するという運用面の課題が残るとし、実際にそういった能力を持つ国は数えるほどもない、と指摘している。