韓国に遅れを取る日本の歴史認識戦略、NYT指摘 米教科書の慰安婦記述などめぐり
1月29日の衆議院予算委員会で安倍晋三首相は、米国の公立高校向けの世界史教科書の慰安婦記述について「がくぜんとした」と述べ、日本の名誉にかかわる問題について、積極的に情報発信して対応していく方針を示した。
教科書のタイトルは、『伝統と対立:過去への世界的な視線(Traditions and Encounters: A Global Perspective on the Past)』だ。教科書には、第二次世界大戦中に、日本軍が約20万人の14~20歳の女性を連行し、慰安婦として徴用したといった記述がある。また、日本海と東海という名称が併記されている。
安倍首相の発言や日本政府の対応について、米韓メディアが報じている。
◆米出版社「疑いようのない真実だ」
日本政府は1月、外務省を通じて公式に、教科書の記述を訂正するよう米出版社のマグロウヒルに求めた。しかし同社はこれを断り、次のような声明を出した。「学者らは、『従軍慰安婦』の事実に基づいて執筆している」、「執筆者による文章、検証、説明は、疑う余地のない正しいものだと考える」(ニューヨーク・タイムズ紙(NYT))
ブルームバーグは、従軍慰安婦の人数について各者の意見が食い違っていると指摘する。国連が1998年に発表した調査結果では、20万人以上の女性が性的労働を強いられたとしており、これはマグロウヒルの教科書と同じ数字だ。一方、歴史学者の秦郁彦氏は、強制はなかったとし、2万人だったと主張している。
◆政府の対応は日本のイメージを損なうのでは
NYTは、「日本が海外でのイメージを向上させるため、予算を大幅に増やそうとしている時」、と首相の発言のタイミングに注目している。記事は、「安倍首相のような日本の保守派は、日本を唯一の侵略者とする歴史的表現を頑として受け入れず、戦いはアジアを西欧の支配から解放しようとするものだったと言っている」、と伝えている。
首相に回答を促したのは、自民党の稲田朋美議員だ。同議員は、国の名誉を守るのは政府の責務だと主張した。
ブルームバーグによると、カリフォルニア州立大学フラートン校のナンシー・スノー教授が日本政府の問題への対応が誤っていると述べている。今のような対応では、「守勢に立つ日本に不利となる見方を強めることになる。今は将来どうなるかという方向に視線を向けるべきだ」、「世界に向け『隣人を歓迎する』という雰囲気を伝えなければいけないだろう。地域の周辺国と協力し、平和を進める国だとより広く認識してもらい、歴史認識をめぐって争うという嫌なイメージを纏うべきではない」(ブルームバーグ)と意見した。
韓国紙ハンギョレは、安倍首相の歴史認識をいま一度精査する必要がある、と記事を始めている。そして、安倍政権の態度は、米政府も懸念を示しているとして、米議会調局(CRS)が1月20日に発表した報告書の内容を取り上げた。報告書では、従軍慰安婦問題や靖国神社参拝、海域での領有権に関する対立、全てが継続的に地域の緊張を高めることに繋がっている、と指摘している。
◆韓国との支持獲得をめぐる争い
NYTは、ここ数年間、日本と韓国は、アメリカに対してそれぞれの歴史認識を受け入れさせようと競争を加熱しているとする。韓国系アメリカ人の団体は、日本と対立している歴史と領土の問題について韓国側の見方を浸透させようと、政治的影響力を使い、教科書を修正させ、モニュメントを建設、と指摘。
安倍首相のもと、日本も遅れを取るまいと慌てているが、韓国に対抗するため外交官を特派するなどしているが、あまりうまくいっていない、とNYTはみている。2014年、バージニア州は、教科書の「日本海」という表記に「東海」という韓国の呼び名も併記することを決定したが、それに反対する日本の訴えを却下している。