人質事件で世論が二分…安倍首相の「積極的平和主義」後退か? 海外紙指摘
過激派組織「イスラム国」による人質事件が、安倍首相の推進する「積極的平和主義」に与える影響について、海外各メディアが報じている。
ブルームバーグは「安倍首相の安保役割強化計画を危機に」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は「軍隊に関する議論を再燃」、米国営放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は「防衛計画めぐる国民の意見を二分」といった見出しで報じている。
◆積極的平和主義の意味
ブルームバーグは、テンプル大学ジャパンキャンパスのジェフリー・キングストン教授の「今回の件で、日本国民は初めて積極的平和主義の意味を現実のものとして捉え、その危険性を明確に感じている」との指摘を紹介。「ヨーロッパ、あるいは、アメリカのテレビだけで報じられていた問題が、いまや日本自身の問題となり、人々を深く動揺させている」(ブルームバーグ)
またVOAも、日本の最近の外交活動とアメリカとの緊密な友好関係によって、テロリストの標的に加えられたことを示している、と報じている。
◆国民へのインパクト
今回の人質事件によって、戦争を好まない日本人の間で、より広い国際防衛を担おうとする安倍晋三首相の計画への反発が高まる可能性がある、とブルームバーグは報じている。
VOAは、上智大学の中野晃一教授の、人質事件に関して世論はまとまっていない、との見解を紹介。「政府は、今回の事件を、テロとの戦いにもっと積極的に参加する必要性の根拠としたいようだ。しかし、大多数の日本国民は、それを実際的な理由とみなすことに納得していない」(VOA)
◆国会審議難航か
ブルームバーグは、短期的には、事件が安倍首相の支持率を押し上げるだろう、としながらも、恐らく事件が国会での審議を難航させ、安倍首相にとって追い風とはならないだろう、との米ローウィー国際政策研究所マーレイ・マクリーン氏の意見を取り上げた。それでも安倍首相は、自衛隊を普通の軍隊に近づけるために法整備を模索している現在の方針を変えることはないだろう、と同氏はみている。
それどころか、日本が国際舞台で、より力強い政治的な役を演じるべきだとの安倍首相の決意はさらに強固になっただろう、との前述の中野教授の見解をWSJは紹介している。「安倍首相は、今回の事件に乗じて、自身がすすめる自衛隊の活動範囲拡大への支持を集めようとするだろう」
実際、安倍首相は25日、NHKの討論番組に出演した際に、事件を引き合いに出し、現行法では、政府のできることは限られていると述べた。「(政府の提出する)法案は、継ぎ目のない法的防衛体制を構築することで、国民の生命と幸福を守ることを目的としている」「例えば、もし海外の日本人が今起きているように危険な状況に置かれた場合、現在の環境では自衛隊が十分にその能力を発揮することができない」(WSJ)
海外各メディアは、今後の国会審議の難航を予想している。