イスラム国人質事件、中国紙は日本批判に利用 「人質殺害は米国支持の代償」

安倍首相・習主席

 イスラム過激派組織「イスラム国(ISIS)」による日本人人質殺害事件に対し、各国メディアも衝撃を受けている。事件そのもののインパクトもさることながら、今後の日本の外交政策に与える影響にも関心が集まっているようだ。

◆自己責任論と政権批判で割れる世論を不安視
 英ガーディアン紙は、人質の一人、湯川遥菜さんの殺害がほぼ確認された今も、安倍政権は「世界で積極的・建設的な役割を果たす」という外交政策を変えないだろう、と報じている。安倍首相の「我が国は絶対にテロに屈しない。そして、引き続き国際社会と共に積極的に世界の平和と安定に貢献する」という言葉を強調して紹介している。

 一方、今も拘束されていると見られる後藤健二さんの救出については、厳しい見方が多いようだ。米誌『アトランティック』は、「安倍首相の選択肢は限定される」と記す。日本は2013年にテロ組織への身代金の支払いを拒否するG8の宣言にサインしている。ISISは現在、ヨルダンで収監されている女性死刑囚の釈放を要求している。ISISはヨルダン軍パイロットを拘束しており、その人質交換交渉が水面下で行われていたとの報道もある。

 同誌は、湯川さんが周囲の反対を押し切ってシリアに渡ったとする報道を受け、「日本国民の多くは彼が自らを危険な状況に追い込んだことに怒りを示した」とも記す。そして、2004年に4人の日本人がイラクで人質になった際にも、世論に同様の「共感の欠如」があったとしている。ガーディアンも、こうした自己責任論や安倍政権批判が飛び交う国内世論を「意見の一致が見られない」と表現。後藤さん救出に向けた日本の足並みを不安視している。

◆「9条改正」への影響は?
 また、ガーディアン、『アトランティック』は共に、今回の事件と、安倍政権の憲法9条改正や集団的自衛権の行使容認に向けた動きを絡めて伝えている。

 ガーディアンは、こうした動きへの国民の支持は限定的だと報じている。事件に対する日本社会の「トラウマ」も、安倍政権の外交・安保政策に影響を与えるかどうかは不透明、とみているようだ。『アトランティック』は、安倍首相が掲げる「積極的平和主義」と、日本人がテロに巻き込まれる可能性の間で、日本は「ジレンマに陥った」と記している。

◆中国紙社説は日本批判に転化
 中国共産党機関紙・人民日報英語版『グローバル・タイムズ』も、事件を受けて社説を掲載した。同紙は事件を「強く非難する」一方で、日本の集団的自衛権行使容認の動きなどを警戒し、「日本には中東で積極的な役割を果たす能力はない」「日本の国家戦略はひどく混乱している」などと批判している。

 さらに、これまで中国を仮想敵国としてきた日本の戦略が、再検討を迫られるかもしれないとしている。その上で、「日本の右派は、中国が何世紀も日本を侵したことがないにも関わらず、中国を最大の脅威としている。逆に中国を侵略し、何度も何度も中国の人々を迫害したのは日本の方ではないか」と、批判の矛先を歴史問題に転じている。

 そして、今後の日本の外交政策について、「地政学的に優位に立つ日本は、敵のない国であるべきだ」だと主張。「人質が殺害されたのは、日本が米国を支持した代償だ」と断じている。社説は、「我々は日本の世論が、中国に向けられたあらゆるテロ攻撃にも明快な態度を示すことを望む」と結ばれている。

Text by NewSphere 編集部