日本の中東和平“仲介”は余計なお世話? イスラエル大統領、安倍首相に牽制発言

安倍首相とネタニヤフ首相

 イスラエルを公式訪問中の安倍首相は19日、同国のネタニヤフ首相とリブリン大統領とそれぞれ会談した。安倍首相は、パレスチナ問題をはじめとする中東和平への積極的な貢献と両国の経済関係強化など訴えた。また、翌日にはパレスチナ自治政府のアッバス議長とも会談した。複数の現地メディアがこれらを伝えている。

◆「平和への積極的な貢献」でパレスチナとの和平を促す
 日本の首相のイスラエル公式訪問は、2006年以来9年ぶり。ネタニヤフ首相との会談では、先週のフランスの連続テロで4人のユダヤ人が犠牲になったことを悼み、「いかなる理由があろうとも、卑劣なテロ行為は許されない」と語った。その上で、9ヶ月前に決裂したパレスチナとの和平交渉の再開を促した。また、パレスチナとの争いをエスカレートさせかねない行動や言動を慎むよう、求めた(イスラエル放送局・i24news )。

 リブリン大統領との会談では、安倍首相は、今年が第二次大戦世界大戦終結、そしてナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所の解放から70年であることを指摘。「私は断固として、そのような悲劇が再び起きることを許さない。そして、世界平和への積極的な貢献と、戦争と差別のない世界を作ることに力を注ぎたい」などと述べた(i24news)。

 安倍首相はまた、会談前にエルサレムのユダヤ教の聖地「嘆きの壁」とホロコースト博物館を訪問。「嘆きの壁」では花輪を捧げ、“永遠の炎”に火を灯した。その後、記者団に「今日私は、ある集団を差別と憎悪の対象にすることで、人間がいかに残酷になれるかということを学んだ」と語った(AFP)。

◆イスラエル大統領、安倍首相の“仲介”を牽制か
 翌日午後にはパレスチナ自治区のラマラで、アッバス自治政府議長と会談した。パレスチナ自治政府はICC(国際刑事裁判所)に対し、イスラエルの攻撃における戦争犯罪を告発している。ICCは数日前に、それに対する予備調査を開始したと発表。日本はICCの加盟国であり、主要な資金提供国でもある。そのため。イスラエルではこの告発を巡る安倍首相の動きが大きくクローズアップされている。

 ネタニヤフ首相は、安倍首相との会談に先立ち、パレスチナ側の告発について、「イスラエルはいかなる脅しからも自らの身を守る」と発言し、ICCの予備調査が軍事行動などを抑止することはないと語った(AFP)。

 また、リブリン大統領は、安倍首相との会談の冒頭で、「あなたは我々の地域に平和をもたらすあらゆる努力をしている」と称える一方で、パレスチナ問題の解決は「(当事者間の)直接交渉でしか達成できない。あなたはその事をパレスチナ側に理解させるため、私たちを助けてくれている。この問題を解決するために国連やICCに行くのは、和平を遠ざけるだけだ」と、安倍首相の“仲介”に釘を刺すかのような含みを持たせた発言をしている(i24news)。

◆“東方政策”の鍵は日本にアリ?
 外交ニュースサイト『ザ・ディプロマット』は、安倍首相の訪問に合わせ、インドの国際関係学者による、日本―イスラエル関係をテーマにした記事を掲載している。それによれば、イスラエルは今、“Look East”の標語のもと、伝統的に経済的・軍事的結びつきが強いEUとアメリカから、アジアへのシフトを目指しているという。

 イスラエルの主要産業は、武器輸出だ。最大の貿易相手国はEUで、アメリカが2位となっていた。しかし、近年はEUとアメリカの軍事費削減、パレスチナ問題やイラク・アフガニスタンからの米軍の撤退により、輸出額が大幅に減っているという。そこで、中国、インド、韓国、ベトナム、シンガポールといったアジア諸国に目を転じる“東方政策”を開始。昨年ついに、アジア太平洋地域への輸出がアメリカを抜いて2位になったという。

 同記事は、まだ関係が十分に構築されていない日本との貿易関係強化が、今後のイスラエルのアジア戦略の成否を握ると強調。軍事協力については、多くの課題が残されておりすぐに結果は出そうにないとしているものの、サイバーセキュリティや宇宙開発部門での関係強化は有望だとしている。また、民間部門でも「寿司などの日本食、そして特に日本のアニメはイスラエルで非常にポピュラーだ。東京にはイスラエル料理店もオープンした」とし、イスラエル政府が2017年までの大幅増を目標に、日本人観光客の誘致に力を入れている事などを紹介している。

Text by NewSphere 編集部