辺野古基地移転が“政治的に困難”に…沖縄自民敗北で受け、米紙が懸念
14日に投開票された衆議院議員選挙に対する、海外メディアの論評が出揃ってきた。ワシントン・ポスト紙(WP)は、安倍自民の勝利がアメリカに与える影響を分析。また、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、例外的に自民党が惨敗した沖縄県の選挙結果と基地問題を、米ラジオ局『ボイス・オブ・アメリカ』(VOA)は、日韓・日中関係への「悪影響」に言及した韓国・ソウルからのレポートを伝えている。
◆TPP交渉は前進か
WPのアナ・ファイフィールド東京支局長は、今回の選挙結果について、アメリカの立場から3つのポイントに絞って分析している。
1つ目は、アメリカは、安倍首相の「パワフルなリーダーシップ」がさらに強化されたことを歓迎しているという点だ。記事によれば、ホワイトハウスは安倍首相の勝利を歓迎し、「日米防衛ガイドラインの見直し」「TPP交渉」「海洋安全保障」といった具体的な政策を挙げ、同盟関係の強化を期待する声明を発表した。
2つ目は、アベノミクスが「信任を得た」ことにより、TPP交渉が進展する見込みが強くなったという分析だ。米議会でもTPP推進派の共和党が多数派となったため、両国で追い風が吹き始めたとする見方が強い。特に米議会がオバマ大統領に、交渉の早期妥結を可能とする「ファスト・トラック権限」を与えるか否かがポイントになるという。日本通の政治学者、ジェラルド・カーティス氏は、記事の中で「米議会が(ファスト・トラック権限付与に向けて)動けば、安倍首相はTPPで譲歩する最後のカードを切ることができる」と述べている。
◆辺野古移転は「政治的にトリッキー」に
沖縄の基地問題について、WPは先の2点とは対照的に「単に悪化した」と悲観的だ。約1ヶ月前に反基地派の翁長雄志知事が就任し、各自治体の首長も反基地派で固められているのに加え、自民党候補が4つの小選挙区全てで敗北したことで、アメリカと安倍政権が進める普天間基地の辺野古への移転は、「政治的にトリッキー」な状況に陥ったとしている。ただし、翁長知事らが主張する「基地廃止」「県外移転」の実現については、「アナリストたちは非常に懐疑的だ」としている。
FTは、この基地問題に絞った分析記事を掲載している。同紙は、選挙結果を受け、「地元住民が基地の閉鎖か県外への移転を望んでいる」ことがはっきりしたとしている。しかし、「安倍首相は1996年にアメリカと合意した(辺野古移転)計画を変更する考えはない事を示し、この厄介な外交問題を終わらせたがっている」と記している。
WP、FTとも、「辺野古移転は唯一の選択肢だ。十分に説明を尽くしながら計画を進めたい」とする安倍首相のコメントを紹介している。
◆「ナショナリスト的なアジェンダ」が前進?
一方、VOAは、歴史認識問題で安倍首相と対立する韓国と中国の視点から、関係悪化を懸念するソウルからのレポートを、動画とテキストで公式サイトに掲載している。レポーターは、ソウル駐在の局プロデューサー、ヨウミ・キム氏だ。
キム氏は、与党大勝を「(安倍首相に)経済再生を続行する力を与えたと同時に、近隣諸国との緊張関係を高めるであろうナショナリスト的なアジェンダを推し進める力も与えた」と総括する。
また、「中国、韓国、日本は、歴史を客観的に見る準備ができていない。安倍首相には、歴史問題から離れて現実主義的な政策を取ることを望む」とする韓国の大学教授の意見を紹介。併せて、ソウルの世宗大学で教鞭を取る日系韓国人の保坂祐二教授の解説も取り上げている。保坂教授は、日本の防衛事情を「日本は中国の軍備拡大に対抗するために軍事力を強化しなければならない。そのためには、自前の軍隊を持たなければならないが、それには憲法改正が必要だ」と説明している。