安倍首相勝利で改憲に近づく…愛国政策強化の可能性、海外メディア根強い懸念
12月14日、衆議院の投開票日が迫っている。大方のメディアの予想は、自民党の圧勝だ。予想通り、あるいは、予想以上に自民党が勝利した後、日本の社会に起こるのはどのような変化なのか。海外各紙は、右派勢力の躍進に注目し予想と警告を報じている。
◆憲法改正
安倍晋三首相が、経済を選挙の主要な争点に置いた一方で、自民党は再び改憲論を持ち出した、と報じているのはAPだ。自民党の大々的な勝利により安倍首相が今後4年間首相に居座ることになるだろう。そうなれば、議論の激しいいくつかの課題が達成されることに、右翼主義者たちは期待を大きくしている、とAPは報じている。『日本文化チャンネル桜』の水島 総代表取締役社長は、「日本は、アメリカ製の憲法に固執してきた。戦後の体制を変革するためにも憲法を改正する必要がある。今回の選挙はそのための良い機会だ」(AP)と述べた。
米シンクタンク『カーネギー国際平和基金』ジェイムズ・ショフ氏は、安倍首相が圧倒的な勝利を収めれば、さらに国家主義的目標に突き進むのではと不安視している。「もし、安倍首相の勝ちがあまりに大きいと、却って首相は方向を見失ってしまうだろう。改憲や望んでいた歴史観の大きな軌道修正などを追い求めるあまりにだ」(AP)
◆古き良き日本への回帰
2012年、自民党によって提案された改憲案は、家父長制を推進し、天皇を再び国家元首にすることなどの内容がみられるという(AP)。安倍首相の保守的指針は神道崇拝、愛国心、天皇を奉じるなどの伝統的民族主義への回帰だ、と同メディアは伝えている。首相の支持者らは、このような変化は必要だとの見方だ。現代の物質主義に対抗するため、戦後アメリカ占領により、消えてしまった重要な日本文化の再興を図るべきだというのだ。
オークランド大学のマーク・ムリンズ教授は、「日本会議と神道政治連盟(SAS)などは、基本的に、(米軍による)占領で、神道の伝統が庶民の生活や意識から奪われたと考えている」、「彼らにとって、これは貴い日本のアイデンティティーだったし、独立性と日本の真価を蘇らせるために、必要なものだとみなしている」(ロイター)と語る。安倍首相が2006-07年の就任時から懇意にしているこれらの団体は、徐々にその影響力を強めている、とロイターは報じている。
2018年からは、政府が承認した教科書を使用し、正式な科目として道徳教育が実施される予定だ。「国を愛する」心を育てることを目的にした、教育に関する法律が改正されたことに伴う動きだ。「愛国教育に関連した事柄が推し進められ、制度化されている。これらは、親たちが気づいていないとしても次の世代の思想を形成していく」(ロイター)とムリンズ氏はその影響を指摘した。
◆言論の自由
米『デジタル・ジャーナル』は、「日本の右翼がリベラルメディアに口封じとアナリスト」と題した記事を掲載している。
10月、自民党が報道機関に、選挙について公正な報道を行うように要請したことは、1930年代の軍による言論統制を思い起こさせ、業界を震撼させた、と同紙は衝撃を伝えている。
今週10日、反対派が政治的なメディア抑圧だと主張する特定秘密保護法案が施行された。文化団体『日本ペンクラブ』は、法律を危惧している。政府が「軍事行為やスパイ活動、その他のいかなる不都合な情報の隠蔽を思いのままにできる」「圧制的な国に戻る」(デジタル・ジャーナル)ことになる、と懸念している。
上智大学の田島泰彦教授は、放送局や新聞社はこのような口封じに対し、抵抗するべきだと主張。「思想に関わらず、右であろうと左であろうと、メディアの使命は、国民の権利が守られるよう監視することだ」「ジャーナリストは、この原則を忘れてはいけない――民主主義にとって、報道は非常に重要なものだ」(デジタル・ジャーナル)
またデジタル・ジャーナルは、朝日新聞が従軍慰安婦に関する記事を撤回・謝罪した件で、右派メディアのみならず、首相が名指しで批判したことは、一国の首脳として異例なことだ、と報じている。早稲田大学の川岸令和教授は、中道右派のメディアが政府の方針に合流する様子は、不安な状況だとみている。「保守メディアは、気をつけるべきだ」「なぜなら朝日を批判することは、人々の議論の多様性を奪ってしまうことになりかねないからだ」(デジタル・ジャーナル)