日ロ関係後退か 日本は「完全な独立国ではない」とロシア識者から制裁批判も

プーチン大統領

 北方領土を含む極東太平洋地域で、ロシア軍が16日までの予定で大規模な軍事演習を行っている。日本政府はこれに強く抗議したが、それを受けて海外メディアの日ロ関係への関心も高まっているようだ。演習の狙いや今後の日ロ関係、極東情勢について専門家らの見解が各紙面で展開されている。

【米国追随姿勢への牽制か】
 演習は、択捉、国後両島を含む北方領土と千島列島(クリル列島)で12日から行われている。インタファクス通信によると、陸・空軍、太平洋艦隊の特殊部隊から1000人以上の兵員と約100の車両や航空機が参加。一部の島ではヘリコプターからの上陸訓練も行われたという。外務省は13日、ロシアのジョスキー駐日臨時代理大使を呼び、厳重抗議した。

 東京のテンプル大学ジャパンキャンパスで教鞭を取るジェームズ・ブラウン准教授(日ロ関係専門)は、ドイツメディア『ドイチェ・ヴェレ(DW)』のインタビュー記事で、ロシアの狙いは次の2点にあると分析している。

①近年ロシアは極東太平洋地域で軍事力を増強している。管轄する極東軍管区の予算も増え、今回のような大規模な演習が可能となった。中国や日本に対抗して同地域での政治的・軍事的な影響力を強めるのが長期的な狙いだ。
②加えて、ウクライナ情勢に関するロシアへの制裁で、日本がアメリカに追随する決定をしたことに不満を示す意味合いも込められている。

 元ロシア下院議員で、現ロシア政府にも助言を行う政治アナリスト、セルゲイ・マルコフ氏はブルームバーグの取材に対し、特に後者の意図を伺わせる興味深い発言をしている。「日本を完全な独立国とみなすことはできない。自国の国益に反する決定をしているではないか。これが、我々(日ロ両国)の最大の問題だ」

 【日ロ関係は「間違いなく後退」】
 北方領土問題を抱える日本とロシアは、第2次世界大戦終結後、今日に至るまで平和条約を締結していない。しかし、安倍政権誕生以来、両国は特にエネルギー貿易の面で経済的結びつきを強めつつある。この1年半で5回も首脳会談を行った安倍首相とプーチン大統領の個人的な友好関係も相まって、日ロは「急速に関係改善に向かっていた」と、ブルームバーグやウォールストリート・ジャーナル紙は指摘する。

 しかし、クリミア問題でその流れが止まり、今回の演習により日ロ関係は「間違いなく後退した」とブラウン助教授らは見ている。

 同助教授はDWのインタビューに「ウクライナ危機で米ロ関係が最悪になると、日本は忠実なアメリカの同盟国であることを証明するため、ロシアとの関係修復を中断せざるを得なかった」と答えている。また、「安倍政権はクリミア併合を見て、同様のことが中国によって尖閣諸島で行われるのではないかという危機感を持ったのではないか。アメリカとの関係を再優先した背景には、そうしたこともあるはずだ」と付け加えている。

【プーチンの「危険なゲーム」】
 ウクライナ関連の制裁でEUとアメリカの市場が縮小したロシアは、アジア市場進出に力を入れている。しかし、その中心となるはずだった日本とも疎遠になったことにより、専門家の間では中国への依存度が今後増々高まるという見方が強い。ブルームバーグは、中ロが今年5月に大規模な天然ガスプラント・パイプラインの建設契約を結んだことを取り上げ、このような「中国主導のパートナーシップ」が今後増々加速するという専門家の見解を紹介。これを「中国依存のリスク」と表現し、懸念を示している。

 ブルームバーグはまた、「プーチンのミッションは、ソビエト崩壊で失った威信を取り戻すことだ」と記す。それが経済的な実利追求を上回った結果が、クリミア侵攻であり最近の極東地域での軍事的な動きだというわけだ。アメリカの研究機関の専門家、パトリック・クローニン氏は、ロシアと中国が今年5月に東シナ海で初の合同軍事演習を行った時も、今回の北方領土での演習と同様のメッセージを含んでいたと言う。同氏は「プーチンは、中ロの軍事協力に対して安倍が抱く懸念を刺激しようとしている。危険なゲームが行われているのだ」と警告する。

 一方、日ロの完全な関係修復の唯一の道は「北方領土問題の解決」だとブラウン助教授は述べる。同時に、「それは当面望めないだろう」ともDWに答えているが、「ウクライナ危機が落ち着けば、(改善に向かっていた)最近のコースに戻る可能性もある」と期待している。

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Text by NewSphere 編集部