日本が参戦?ありえない…英米メディア、安倍政権の新方針は「防衛」コンセプトと報道
安倍内閣は1日、集団的自衛権の行使を容認する憲法再解釈を閣議決定した。海外メディアはこのニュースを「日本が歴史的な一歩を踏み出した」(ワシントン・ポスト)などと大きく報じ、専門家の見方を交えた論説記事も盛んに展開している。
【米国にとっては「非常に良いニュース」】
ワシントン・ポスト電子版のオピニオン記事は、今回の日本の動きは同盟国アメリカにとって「非常に良いニュースだ」とする専門家の意見を掲載した。
米シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート」のダニエル・ブルンメタル氏は、北朝鮮が米軍に向けてミサイルを放っても日本は公式に撃ち落とすことができないという、これまでの「ねじれ現象」が解消された、と歓迎のコメントを寄せている。
同氏は、対中国の安全保障面でも安倍政権の決定を評価する。中国がベトナムと領有権を争う海域で油田の掘削を始めたことを「(4月末の)オバマ大統領のアジア歴訪からたった数日後に、(アメリカの)ヘーゲル国防長官やケリー国務長官の警告を無視して行われた」と批判。こうした情勢下での安倍首相の決断を賞賛し、「我が国が何もできていない分、引き続き大胆なリーダーシップを発揮してほしい」とコメントしている。
【「国内世論の反対」がリスクの一つ】
英BBCの公式サイトの論説記事は、オーストラリア、フィリピンなどのアジア太平洋地域諸国も日本の動きを歓迎していると論じる。米軍との協力関係はもちろん、「アジア太平洋地域の国々とよりアクティブな防衛協力を行うための門戸を開いた」との評価だ。
日経新聞の最新の国内世論調査によると、新しい憲法解釈に反対する意見は50%で、賛成の34%を上回っている。BBCはこれを受け、国内や中国・韓国の反対論の拡大をリスクの一つに挙げる。反対論者の多くは、集団的自衛権の行使により、日本がアメリカなどが関与する大きな戦争に巻き込まれることを心配している。
これに対し、同メディアは「安倍政権はそのようなオプションは明確に除外している」と反論する。安倍政権が、日本の財産と利益を守る「集団的自衛権」と、同じ敵の攻撃を受けている国家がお互いの財産を守る「集団的安全保障」を慎重に区別していることに触れ、「安倍首相自身、自衛隊は湾岸戦争やイラク戦争のような戦闘には参加しないと明言している」と記している。
【「防衛のためのコンセプト」】
「日本は平和憲法からの歴史的な離脱を果たし、中国を怒らせた」と、対中関係の悪化を懸念するのは、米ニュース専門サイトCNBCだ。上智大学のティナ・バレット助教授は、記事の中で「私は必ずしも日中が衝突するコースにあるとは思わない。しかし、中国では既に日本のナショナリズムと攻撃性が高まっているという物語が作られている」と述べている。
一方、米シンクタンク「デルタ・エコノミクス」のトニー・ナッシュ副代表は「(憲法再解釈は)国粋主義的な動きに映るかもしれないが、安倍首相がやろうとしているのは、日本に新たなアイデンティティを築き、国全体の意識を近代化することだ」と論じる。同氏はアジア太平洋地域でのパワーバランスの変化や米軍の予算削減などを見ても、「この動きは不可避なものだったと言える」とも述べている。
国際基督教大学(ICU)のスティーブン・ナギ准教授は、憲法再解釈の考え方を次のように総括する。「この再解釈には一定の制限があり、戦闘地域には部隊を派遣しないとされている。つまり、これは攻撃のためのコンセプトではなく、他国と協力して行う防衛のコンセプトだ」。
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