解釈改憲は“クーデター”…安倍首相を米誌が批判 国民投票で改憲問うべきと提言
集団的自衛権の行使を可能にするため、安倍首相は現在、憲法第9条の解釈の変更を試みている。政府・自民党は、来月1日にその閣議決定を行う方向で調整に入ったと報じられている。しかし、手続きの正当性、影響、進め方の拙速さなどには、海外からも批判がある。
【憲法改正ではなく解釈の変更という抜け道をとることを批判】
米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』の論説は、安倍首相が、憲法第96条によって定められた憲法改正の手続きを踏まず、再解釈という方法で、このような大きな変革を行おうとしていることを強く非難する。記事によると、これは憲法に反した手法であり、「憲法のクーデター」だという。安倍首相は「不正を働く」人物だとしている。
本来、憲法改正は、衆参両院それぞれの総議員の3分の2以上の賛成によって発議され、国民投票で過半数の賛成が得られれば成立する。記事によると、安倍首相率いる連立与党は、衆議院では3分の2以上の議席を占めているものの、参議院では議席の55%で、3分の2に達していない。また国民も、共同通信が6月に実施した世論調査では、55%が集団的自衛権の行使容認に反対していた。したがって、もし首相が憲法改正を試みていたとすれば失敗していたはず、という論旨である。
【国民投票というプロセスのある憲法改正を試みるべき】
安倍首相は、自身の考えが正しいと国民に納得させ、その上で、憲法改正の手続きに則って、国民投票を行い、国民の意思を問うべきだ、と記事は提言する。いまの憲法は、アメリカの占領下で作成され、国民に問うことなく採用されたものだ。しかし、正当なプロセスによって投票がなされたならば、そのときこそ憲法は国民の意思に基づくものとなるだろうし、それによって、アジアの主要な民主主義国の一つとしての地位が強化されるだろう、としている。
逆に、いま進めているようなやり方で、安倍首相が一方的に憲法を「修正」し、国民投票のプロセスを軽視するのであれば、将来、さらなる「クーデター」の、恐ろしい先例を生み出すことになると語る。それは、日本の自由民主主義の破壊になる、と危機感をあらわにしている。
【なぜこれほどまでに急ぐのか】
安倍首相がこれほどまでに急いで事を進める理由を、『ウォール・ストリート・ジャーナル』が分析している。一つには、「アベノミクス」が国民から強力な支持を得たために、内閣の支持率が高く、いまなら自由に政策を推し進められる余地があることだ。
そしていま一つ、日米両政府は、年末までに「日米防衛協力のための指針」を改定することで合意している。アメリカとより対等なパートナーシップを結びたい首相は、この「指針」に、日本の新しい役割を盛り込みたい考えだ。そのために、なるべく早く、集団的自衛権を認める憲法の新解釈を有効化したいのだという。
しかしそのせいで、国会、また連立与党内でも、議論が十分尽くされていないのではないか、とする批判があることを記事は伝えている。
【内閣法制局を自分の道具にしてしまった首相を批判】
ウェブ誌『ザ・ディプロマット』は、第9条の再解釈を可能にするために、本来は独立性の強い機関であるべき内閣法制局を、安倍首相が自身の「道具」にしてしまったことを批判する。
憲法改正は、長い間、首相にとっての使命であり続けた。しかし、それを行おうとすると、国民と、連立パートナーの公明党から強い反発を受ける。そこで首相は、改正よりも容易な、再解釈という解決策を見出した。内閣法制局がそのための手段を提供するだろうと首相は気づいた、と記事は語る。
内閣法制局は、第9条を含む憲法の解釈で主要な役割を果たしている。従って日本の防衛政策の中心的役割を果たしているとも言える。安倍首相は同局を、自分の有利になるように利用することを決めた、と記事は語る。昨年8月には、自分と近しい見解を持つ小松一郎氏を長官に就任させた(小松氏は5月に退任、6月逝去)。その後、首相は、2月の衆議院予算委員会で、憲法解釈に関しては自分が「最高責任者」であると語り、再解釈に向けた動きを本格化させた。
【アメリカが尖閣諸島を守ってくれないのではないかという不安】
『ザ・ディプロマット』は、安倍首相が集団的自衛権を重要視する理由について、このようなことを語っている。アメリカは何十年にもわたり、日本に対し、日米同盟においてより積極的な役割を引き受けるよう強く求めてきた。アメリカの意向に沿わない場合、もし尖閣諸島をめぐって中国との間に衝突が起きても、アメリカは尖閣を防衛しないのでは、と安倍政権は懸念しているというのだ。
多くの人は、集団的自衛権の行使を可能としても安全保障上の効果はなく、むしろ日本がアメリカの軍事的追従者になることを危惧している、と同メディアはみている。とはいえアメリカは確実に歓迎するので、軍事的価値よりも政治的価値が大きいのかもしれない、としている。
NewSphere編集部 |