日本の“軍拡”やむなし…緊張高まるアジア情勢を海外報道 安倍政権は公明党と世論を説得できるか
安倍首相は28日の衆院予算委員会で、中国の増え続ける軍事予算や予測不能な動きに言及し、安全保障強化の必要性を改めて強調した。集団的自衛権の行使容認に向けた安倍首相の動きに、海外各紙が注目している。
【変わりゆく安全保障環境】
安倍首相は、24日に中国軍の戦闘機が自衛隊機に異常接近したことに言及。こうした事態を「いつ何時、不測の事態が起こりかねない状況」の実例とし、国民の平和な暮らしを守るために、集団的自衛権の行使容認は不可欠であることを訴えたという。
トルコのニュースメディア『ターキッシュ・ウィークリー』は、こうした安倍首相の方針について、「日本をとりまく環境が、軍拡を迫られるほど安全保障が危うくなってきた」ことを表すと評している。
その背景として同メディアは、中国に加えて、ロシアとの関係についても指摘する。日本は米同盟国としてクリミア情勢をめぐるロシアへの制裁に加担しているが、一方で、北方領土返還に向けた対話も進めたい意図があり、立場が非常に危うい、としている。
【想定事例で説得を試みる政府】
集団的自衛権の行使容認には、いくつかの壁がある。そのひとつが、連立する公明党の慎重姿勢だ。
27日、自公両党は「安全保障法制整備に関する与党協議会」を開いた。これについてウォール・ストリート・ジャーナル紙(ウォール紙)、は「安倍首相が”自衛隊が稼働できない16の想定事例”を用いて公明党の説得にあたった」と報じている。その内訳は、以下の通りだ。
1:離島等における不法行為への対処
2:公海上で訓練などを実施中の自衛隊が遭遇した不法行為への対処
3:弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護
4:領海内で潜没航行する外国の軍用潜水艦への対処
5:侵略行為に対抗するための国際協力としての支援
6:駆けつけ警護
7:任務遂行のための武器使用
8:領域国の同意に基づく邦人救出
9:邦人輸送中の米輸送艦の防護
10:武力攻撃を受けている米艦の防護
11:強制的な停船検査
12:米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃
13:弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護
14:米本土が武力攻撃を受け、我が国近隣で作戦を行う時の米艦防護
15:国際的な機雷掃海活動への参加
16:民間船舶の国際共同護衛
※政府が公明党に提示した事例は15。海外メディアは、政府資料で「事例3の中の参考事例」扱いとなっている部分を「事例4」とカウントして報じている。
【国民の理解】
しかし、この説得はほぼ効果なく終わった、とブルームバーグは報じている。公明党の斉藤鉄夫幹事長代行は同誌のインタビューに対し、「第9条は、憲法の核心。解釈だけ変えればいいというものではない。変えるなら、改憲への正式な手順を踏むべきだ」と語っている。
さらに世論の壁も立ちはだかる。同誌は、回答者の51%が「第9条の解釈を変えることに反対」と答えた日経新聞の世論調査を紹介している。
ウォール紙のインタビューで安倍首相は「同盟国が攻撃されていれば、日本が直接攻撃対象となっていなくても防衛に加担する、というところが国民の理解を得難い点だ」と語っている。同紙によると、公明党の山口那津男代表も同様の見解を持っており、「いかに国民の理解を深めるかが課題」と語っているという。
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