“日本の核施設は警備が緩すぎる!”アメリカが日本にプルトニウム返還を求めたわけ

 日本政府は24日、研究用として所有している核物質を、アメリカに引き渡すことで合意した。

 件の核物質とは、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構内「高速炉臨界実験装置(FCA)」にある高濃縮ウランおよび分離プルトニウムのことで、1960〜70年代にアメリカおよびイギリスから購入した。

【アメリカのテロ対策に協力】
 朝日新聞は、この引き渡しの理由を「アメリカのテロ対策方針」に協力するため、と報じている。

 朝日新聞がCPI(センター・フォー・パブリック・インテグリティー/米の非営利報道団体)との共同取材から得た情報によると、東海村にある核物質に対するアメリカ政府の懸念が日本政府へ伝えられていたとのことである。

 その懸念とは「施設における警備の緩さ」であるという。問題の物質が高濃縮であるがゆえ、そのサイズはコンパクトで持ち運びやすい。かつ放射線量もさほど高くなく、つまりはテロリストにとって実に好都合ということだ。にもかかわらず当該施設の警備は「アメリカでは考えられないレベルで緩い」というのがアメリカ側の見解で、そのことが米政府にとって問題であった、と同紙は伝える。

【非核化がオバマ政権要のひとつ】
 ニューヨーク・タイムズ紙は今回の合意を、「オバマ政権にとっては最大の成功のひとつ」と表現している。

 オバマ大統領は、2009年チェコの首都プラハにて、核廃絶を訴える演説をした。以来、世界の非核化はオバマ政権にとって要のひとつとなった、と同紙は伝える。しかしそんな中、ロシアとの関係は悪化、北朝鮮は核開発を再開、インドとパキスタンも武器開発の近代化を進めており、事態は一向に好転しないという。

 そうなると、もはや「核物質」の安全管理が政策の柱とならざるを得ない、と同紙は指摘する。2012年の核保安サミットでオバマ大統領は「分離プルトニウムのような危険な物質をこれ以上増やさないこと、かつ既存のものについてはテロリストの手から守ることが必用」と訴えている。

 今回の日本による核物質返還は、そのようなオバマ大統領の訴えが初めて形になったようなもの、と同紙は伝える。さらに同紙は、この合意の共同発表が、非核化に向け日本と共に世界を先導するよいきっかけとなるだろう、との見方を示している。

【背後には中国の懸念も?】
 ブルームバーグは、日本の核物質保有に対する中国の懸念について報じている。

 同誌によると、中国外相の報道官は、日本が所有する核物質について「通常必要と思われる量を遥かに超えている」と発言しているとのことである。つまり中国は「日本が核物質を兵器に転用する」ことに怖れを抱いているらしく、青森県六ヶ所村で試験運転中の核燃料再処理工場についても脅威に感じているという。

 「日本は、核物質を兵器に転用するつもりは全くないにも関わらず、その高い技術力から”その気になればいつでもやれる”と思われてしまう。そのことが各国へ誤解を与えている」と元ホワイトハウス科学技術政策局次長のスティーブ・フェッター氏は指摘する。さらに同氏は、折しも領土問題等で日中関係が悪化している事情を考えれば、日本が「エネルギー使用とは別の目的」を持っていると中国が勘繰っても仕方がないだろう、との分析を示している。

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Text by NewSphere 編集部