“謝罪にうんざりした日本”が、軍国主義回帰へ? 国内と異なる海外メディアの懸念とは

【「日本はいつまで過去に縛られ続けるのか」】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「過去を謝罪し続けることにうんざりする日本」と題する記事を掲載した。戦争の敗者として、他国に求められる姿勢のままふるまい続けることに、日本人、特にナショナリストのあいだで不満がくすぶっている、という一橋大学、国際・公共政策研究部の秋山信将教授の分析を紹介している。「戦後レジームからの脱却」をうたう安倍首相の方針は、この感情に応えるものであり、それが首相の人気を支える一因ともなっている、という。

 過去からの脱却とは、謝罪をやめることだけでなく、日本がこれまで控えていた主張を行うようになることでもある。たとえば、首相は、「積極的平和主義」を主張し、そのために集団的自衛権についての憲法解釈の変更を試みている。また、最小限ではあるが、防衛費を増加させている。しかし、こういったことが、中国・韓国の目には、日本の軍国主義の復活と映る。

【越えがたい認識のずれ、その背景にあるもの】
 このような認識のずれが起こる原因として、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事は、事態を解釈する文脈が、日本と他国のあいだで決定的に異なっていることを示す。そのもっとも顕著な例が、昨年12月に行われた、安倍首相の靖国参拝だ。これは、中韓の激怒を呼んだばかりでなく、アメリカの疑念をも引き起こした。

 日本で行われた世論調査では、安倍首相の参拝を41%が支持し、46%が反対した、と記事は報じる。支持したのは右派ばかりではなかった、という。多くの人は、日本の総理大臣の行動について、他国があれこれと指図することに反対していたのだ、とする。つまり、参拝すること自体に、積極的な賛意があったのではない。

 しかし、諸外国からは、靖国神社に参拝することは、決定的な意味をもつ行為と見なされかねない。この記事では、靖国神社に併設の博物館(「遊就館」)で、先の戦争を正当化するような見解が「平然と提示されている」、と触れられている。また、記事中で、靖国神社は“Yasukuni war shrine”(靖国戦争神社)と呼ばれている。この表現は、近年、急速に、英語メディアで用いられるようになった。

 首相自身は、参拝することによって、「今後とも不戦の誓いを堅持していく決意を、新たにし」た、と未来志向を強調する。しかし、このような背景の中では、未来志向も、大戦中の軍国主義への回帰と、あべこべに受け止められる可能性がある。

【日中関係はいまが最悪?】
 政治学者イアン・ブレマー氏は、「日中関係はいまが『最悪』なのか」という論文をロイターに寄稿した。現在、日中間で、盛んに非難の応酬が繰り広げられているほか、お互い挑発的な行動にも事欠かない、とする。そして、中国が防空識別圏を設定したことと、首相が靖国参拝したことを、同列に並べている。靖国神社を「日本の大戦中の軍国主義と結びついた場所」だと形容している。

 日中は、経済的に太いパイプをもち、軍事的衝突はどちらも避けるだろうが、偶発的な事態は起こる可能性があるのを、氏は懸念している。経済的結びつきが衰えつつあると両国が思い始めたそのときは、衝突の危機も大きくなる、と述べる。

 氏は、両国間の国民感情は、今後も悪化していく、と予想している。そして、近い将来のリスクよりももっと気がかりなのは、対立の解決が期待できないということだ、と述べた。

【求められる首相自身の態度表明】
 ワシントン・ポスト紙は社説で、NHKの籾井勝人会長と、同じくNHK経営委員の百田尚樹氏が相次いで行った、戦争に関する発言を取り上げた。

 籾井会長は、個人的見解だと断った上で、「慰安婦はどこにでもあった」と、日本の罪を薄めるような発言を行い、百田氏は、南京大虐殺を否定する発言を行ったことを伝えている。また、日本が軍事裁判で裁かれたのは、アメリカが自分たちの戦争犯罪を隠すためだった、と百田氏が主張したと報じている。

 百田氏のこの発言に対し、アメリカ大使館はタイム誌に「これらの示唆は、荒唐無稽」と語ったという。ワシントン・ポスト紙は、「日本政府は、これらの発言に対し、なぜ同じように明瞭に非難できないのか」と問いかけている。政府筋は「言論の自由」を持ち出すが、それを言うなら首相自身にも言論の自由がある。首相は両氏の任命に関与しているのだから、とくに責任があるはずだ、と主張する。

 もしこの問題にしらを切り続けるなら、首相自身が、有害な歴史修正主義的考えを抱いている、という誤ったメッセージを送ることになりかねない。そうなると、国際社会で積極的な役割を果たそうとする首相の意図も、軍国主義のよみがえりだと受け取られる可能性がある、と同紙は警告する。

新しい国へ 美しい国へ 完全版 (安倍晋三)

Text by NewSphere 編集部