「雇用特区」規制緩和は見送り 海外・日本の報道の違いとは
日本経済再生本部で18日、成長戦略の柱となる「国家戦略特区」の規制緩和概要が決まった。
注目された雇用規制緩和については、「労働時間法制」と「解雇ルール緩和」が見送られた。安倍首相は検討を支持していたが、田村厚生労働相は、「世界で見ても、特区で労働規制の根幹を緩める例は見当たらない」と規制緩和に慎重な姿勢を貫いた。
政府は11月上旬に規制改革の内容を盛り込んだ関連法案を今国会に提出する。成立すれば、年明けに規制緩和の細目を決定する見込みだ。
【特区案の概要】
国家戦略特区とは、地域を絞って雇用や農業分野を含む岩盤規制を緩め、経済を活性化する構想で、外国企業の誘致などに不都合な規制を外すねらいがある。当初案では、(1)解雇ルール(2)労働時間法制(3)有期雇用制度が見直し対象とされていた。
(1)解雇ルールについては、労働側と企業側がともに反対しており、政府が雇用契約の指針をつくり、企業に助言するという妥協案となった。新藤総務相は「外資系企業が日本に立地することを躊躇する原因とならないよう、雇用ルールを明確化する」と述べた。
(2)週40時間が上限という労働時間の規制を適用しない「労働時間法制(ホワイトカラー・エグゼンプション)」については、不当な残業を強いられるなどと厚労省が強く反発したこともあり、見送られた。企業側からは、労働生産向上のため賛成の意見が出ていた。
一方、(3)非正規社員の「有期契約」については、専門職に限り、全国一律で5年から10年に延長する案を政府は出した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「この種の雇用需要は2020年東京オリンピック前にふえるだろう」という、みずほ総合研究所の岡田豊主任研究員のコメントを掲載した。
【今後の見通しは?】
「18日の提案は最初のステップにすぎない。さらなる規制緩和策が提案される」と関係者は述べている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、法人税減税に注目している。同紙は、東京都と大阪府が特区の法人実効税率を「20%以下」とするよう要求していることを取り上げた。20%を下回れば、シンガポールの17%、香港の16.5%と競合できるようになる。なお現在、東京の法人実効税率は38.01%である。
なお日経新聞は「政府内の調整は時間切れ」で、「岩盤規制」の突破には遠いと厳しい姿勢だ。一方朝日新聞は、「緩和色が大きく後退」として、「解雇特区」は事実上、見送られたと報じている。朝日の編集委員は「国際労働機関(ILO)の調査では、解雇の規制緩和が雇用を生み出したと裏付けるデータはない」と指摘した。