日本と世界が直面する「ウナギ危機」 稚魚の密漁、密輸、歴史的不漁
こってりと脂がのった身と甘辛いタレの絶妙なバランスが愛されているうなぎのかば焼き。しかしニホンウナギは絶滅危惧種に指定されるほど激減したため高級品と化しており、天然ものは言うまでもなく、養殖物や輸入ウナギの価格も年々上昇している。養殖に使うウナギの稚魚の価格も高騰し、欧米では密漁や密輸も問題化している。ウナギ消費国日本の姿勢が問われている。
◆ウナギ大好き日本人。食べ過ぎで生息数激減
日本のウナギの年間消費量の半分は「土用の丑の日」などがある夏場のもので、ニューヨーカー誌も述べるようにウナギを食べることは日本文化の一部であるが、水産庁によると、2015年の日本におけるウナギの供給量は約5万トンで、2000年の約16万トンをピークに減り続けている。
日本政府はウナギを2013年に絶滅危惧種に指定したが、同誌はそれまでの30年間の間に、ニホンウナギの生息数は90%も減少してしまったと述べる。天然ウナギの流通は少なく、現在市場に出回っているのは、シラスウナギ(ウナギの稚魚)を捕獲して育てた養殖ウナギだ。ウナギの養殖は、日本、中国、韓国、台湾などで行われているが、シラスウナギが年々獲れなくなってきている。国内報道によれば、今年のシラスウナギの漁獲量は前期の1%程度と歴史的不漁になっており、取引価格も高騰している。
日本ではウナギの完全養殖が成功しており、解決策として期待されるが、APによれば1研究施設当たり年間数千匹程度しか生産できない。資金が不十分なことも手伝って、10万匹単位で生産する商業化は困難ということだ。
◆シラスウナギも激減。海外で密猟多発
別のAPの記事は、アジアの養殖業者がシラスウナギを高く買い付けることから密漁が問題になり、米東海岸では取り締まりが行われていると報じている。メイン州では、州の認可を得た約400人の漁師がシラスウナギを獲っており、ドル箱産業となっている。ある漁師は、1990年代には5000ドル(約55万円)だった年収が、2012年には35万ドル(約3850万円)まで増えたと話し、漁獲割り当てが厳しくなった今でも、シーズンあたり5万7000ドル(約627万円)を得ているという。メイン州では獲り過ぎを防ぐため、毎春数週間だけに漁の期間を限定しており、違法な漁で数十万ドルを荒稼ぎする密漁者たちのおかげで、資源が枯渇することを漁師たちは懸念しているという。
欧州のメディアネットワークEURACTIVによれば、EU域内でもシラスウナギの違法取引が問題になっているという。EUは、2009年に資源保護の目的ですべてのウナギ貿易を禁止したが、毎年欧州で獲られたシラスウナギの半分が、中国などの養殖業者に違法に密輸されているという。欧州の合法な市場では1キロ当たり高くても300ユーロ(約4万円)だが、違法取引の場合1500ユーロ(約20万円)以上になる。EURACTIVが取材した密輸を取り締まる捜査官によれば、シラスウナギのほうがコカインより利益が上がるということだ。
シラスウナギの密輸には中国の違法組織が関わっていると捜査関係者は見ているが、ニューヨーカー誌は、中国に渡ったシラスウナギは主に日本市場向けに育てられると指摘している。また同誌は、資源管理に取り組んでいるはずの日本が、大量のシラスウナギを香港経由で輸入していたという2016年の日本の国内報道についても言及し、日本が密輸に加担していることを示唆している。
◆ウナギの減少が日本の危機に?遅れた対策
ニューヨーカー誌は、シラスウナギを乱獲したことが、間違いなく日本のウナギ価格の高騰をもたらしたと指摘する。日本政府は2013年にニホンウナギを絶滅危惧種に指定したが問題の大きさを認識するのが遅く、価格の高騰に耐えきれなかった老舗のうなぎ店が閉店という形で犠牲になったと同誌は述べている。そしてウナギが消えゆくことは、ウナギとその生態系の絶滅という環境危機、数世紀続くウナギ産業の経済的危機、そして日本人の文化の危機という多重危機をもたらしているとし、ウナギ絶滅問題に日本がどう対処していくのかに注目している。