イギリスがタバコ規制を強化、簡素でくすんだ緑色の包装に統一 業界、愛煙家は反発

 イギリスでタバコのパッケージのデザインと表記を統一する新規制が20日から完全実施となった。より魅力のないパッケージにすることで、若い世代の喫煙防止につながることが期待されている。一方、愛煙家は個人の自由の侵害だと反発。タバコ業界はさっそく新規制対策に乗り出しており、反タバコへの取り組みは一筋縄では行かないようだ。

◆反タバコに前向きな英政府。パッケージにもより厳しく
 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、イギリス政府はタバコの広告禁止、タバコ会社によるイベントの協賛禁止、パブでの喫煙禁止などの反タバコ規制を採用してきており、今回のパッケージ統一もその一環だという。新規制は、EUの「タバコ規制指令」に準じて昨年より実施されているが、古い在庫を売り切る猶予期間が終了し、20日から完全実施となった。

 BBCガーディアン紙によれば、パッケージの色はくすんだ緑褐色に統一され、前面、後面の65%に大きく健康被害警告を入れることになっている。箱の上部にはタバコの害を知らしめる生々しい写真を入れることが義務づけられ、ブランドネームも標準の書体、サイズ、色以外では記載できない。安く手軽に買えないよう少量パックは廃止され、1箱最低20本入りとなった。「低タール」、「オーガニック」などの誤解を招く表示は排除され、フレーバー付きタバコも今後禁止となる。同様の規制は電子タバコや手巻きタバコにも適用されるという。

◆スモーカー自体は減っている。課題は若者の喫煙
 タバコの害排除に取り組む団体、ASH(Action on Smoking and Health)によれば、イギリスのタバコ売上のピークは1974年で、近年では成人の喫煙率は17%以下とピーク時の半分以下となっている。タバコを最も好むのは25~34才で、24%が喫煙者だ。FTによれば、イギリスの中学生のほぼ5人に1人に喫煙経験があるとされており、これまでのタバコ規制は、若い世代の喫煙防止にはあまり効果がなかったと見られている。

 ASHは、統一パッケージですぐに喫煙者がタバコを止めるとは思えないが、「パッケージを通じたマーケティングにさらされたことがない世代が出てくれば」、新規制の効果は明らかになるだろうとしている(FT)。Cancer Research UKのアリソン・コックス氏は、イギリスには900万人の喫煙者がおり、喫煙が原因で死亡する人は国内で年間9万6千人だと述べる。若い世代をタバコ中毒から守るためにも、新規制は有効だと主張している。

 一方タバコ規制に反対する英政治圧力団体、Forestのサイモン・クラーク氏は、新規制は選択の自由と個人の責任を攻撃することで、大人の消費者を子供扱いするものだと断じる(ガーディアン紙)。ネット上で統計データを提供する『Statista』は、新規制のようなハイレベルなコントロールをする政府は、「Nanny State(子供を過保護に育てる乳母のように、個人の生活に過剰に介入する国家)」と見なされると指摘している。

◆規制強化でもタバコは儲かる。価格上昇を嫌い消費者は抜け穴探し
 ASHによれば、英タバコ市場の80%を占めるのはインペリアル・タバコと、ウィンストン、キャメルの有名ブランドを持つJT(日本たばこ産業)だ。FTによれば、タバコ会社はセールスへの影響を心配しているものの、その利益は他の消費材メーカーの2倍以上で、財政状況は極めて健全だと言う。例えば、昨年のフィリップモリスの全世界での営業利益率が40%なのに対し、ユニリーバは15%、コカコーラは23%だった。やはりタバコは儲かるビジネスなのだ。

 投資銀行ジェフリーズのアナリスト、オーエン・ベネット氏は、統一パッケージでタバコ会社が懸念するのは、ブランドの資産的価値がむしばまれ、売上低下への対応策としての値上げが難しくなることだが、それ以外のインパクトは不明だとしている。イギリスに先立ち、2012年に統一パッケージが採用されたオーストラリアでは、タバコ会社は小売店と手を結び、販売員による消費者への営業活動を強化し、かなりの成功を収めたという。インペリアルのCEOは、セールス、利益ともに拡大し、統一パッケージ市場でも十分やっていけるという手ごたえを得たとしている。また、タバコ各社は従来のビジネスの堅持に加え、電子タバコや、煙ではなく蒸気を出すタイプのタバコでビジネスを拡大しようとしているという(FT)。

 Statistaによれば、2017年にイギリスで最も人気のある価格帯の20本入りパッケージの推奨小売価格は9.91ポンド(約1500円)で、10年前の約2倍となっており、パッケージ以上に購入意欲を減退させるようだ。ASHによれば、イギリスで消費される紙巻きタバコの13%、手巻きタバコの3分の1は不正に入手されたもので、英政府の損失は、年間24億ポンド(約3500億円)に上っている。

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Text by 山川 真智子