国際学力調査、シンガポール3冠 お金だけではない、結果からわかる教育に重要なこと
経済協力開発機構(OECD)による、国際的な生徒の学習到達度調査(PISA)の2015年の結果が発表された。「教育のワールドカップ」とも呼ばれ、2000年から15歳を対象に3年毎に行われており、科学的リテラシー、数学的リテラシー、読解力の3分野で、「義務教育で得た知識をどのようにより広く応用できるか」を共通テストで測っている。6回目となった2015年調査には、72の国と地域から54万人が参加。結果は各国の教育政策に影響するといわれており、今年も大きな注目を浴びている。
◆アジア強し。日本も大健闘
PISAによれば、今回の調査で各分野の上位3ヶ国は、科学でシンガポール(556点)、日本(538点)、エストニア(534点)、数学でシンガポール(564点)、香港(548点)、マカオ(544点)、読解でシンガポール(535点)、香港(527点)、カナダ(527点)となり、シンガポールが圧倒的な学力を見せつけ三冠を達成した。
ゆとり教育から転換した日本も、科学が2位、数学が5位、読解が8位と、全てトップ10入り。韓国、香港、台湾(台北のみ)、中国(上海、北京、江蘇省、広東省のみ)など東アジア勢も、好成績を残している。
ウェブ誌クオーツによれば、2000年にはグローバル教育のスーパーパワーと呼ばれ、世界の教育者が群れをなして視察に来たフィンランドは、トップ3から姿を消した。ノーベル賞受賞者数の国別ランキングで1位のアメリカは、数学のスコアでは470点とOECD平均(3分野とも約490点)を下回り、科学(496点)も2012年から下降、読解では497点とギリギリOECD平均を上回る冴えない結果となっている。
◆お金があれば、成績も上がる?
エコノミスト誌は、テストスコアで生徒の能力を格付けるPISAに対しては反対意見もあると述べる。教育とはテストの成績で測れるものではないし、「がり勉」には各国の文化や親の熱意などが関係しているため、PISAはあまり役立つものではないと考える人もいるという。
クオーツは、PISAの結果から、富と教育の強い相関性が読み取れると指摘する。今年はアメリカのマサチューセッツ州がアメリカとは別に評価されているが、科学で529点とトップ10レベル、アメリカ人が全般に苦手とする数学では500点と、全体の平均を10点上回っており、同州が全米で最も平均収入の高い州のひとつであることと関係があると同誌は見ている。
しかしエコノミスト誌は、貧富の差は得点と強い関連を持つが、それが宿命だとは言えないと述べる。実は、OECD加盟国においては、PISAテスト上位25%の生徒のうちの29%は恵まれない家庭の子だという。また、貧しい国々においては、生徒一人当たりに国がかける金額と得点の高さには相関性があるが、より裕福な国においては、その相関性は薄れるとし、一人当たりにかける額はデンマークが50%も多いのに、ポーランドとデンマークの科学のスコアはほぼ同じだと述べている。お金は重要だが、決め手ではないらしい。
◆決め手は教師。教える力に期待
エコノミスト誌は、常に成績上位にいる国からではなく、最近伸びてきた国からも学ぶべきだとし、2015年に成績を伸ばした国の一つ、エストニアを例に上げる。同誌によれば、この20年間に同国の若年人口は減少し、結果として教師一人当たり12人という少人数制が実現してしまったという。これにより、勉強が遅れている子により目が届くようになった。また、欧州では早い時期から進学コースと職業コースに生徒を分ける傾向があるが、エストニアでは15~16才までコース分けをせず、将来の労働市場の変化に適応し、新しいスキルを学ぶのに役立つよう、数学や読み書きをしっかり教えることにしたのだという。
PISAの高得点国についての本「Cleverland」の著者であるルーシー・クレハン氏は、上位国のほとんどは、遊びをベースにした幼児教育で小学校入学準備をさせ、6、7歳から学校でしっかり高いレベルの読み書きと算数を教えていると述べる(エコノミスト誌)。日本もこのスタイルに当てはまると思われ、詰め込み、創造性がないと批判されているが、海外では意外にも評価されているようだ。
シンガポールのストレート・タイムズ紙は、教師の熱意も大切だと説いている。シンガポールでは、数学の授業で空港に行き、外貨両替の計算をしたり、タクシー乗り場の列に何人まで並ぶことができるかなどを考えたりする実生活に密着した楽しい授業を行う教師もおり、生徒に好評だという。シンガポール教育省は、すでに何年も前から考える力に重きを置くカリキュラムにシフトさせてきたと述べ、今回のPISAの結果は、自国の生徒たちが様々な状況下で、持てる知識とスキルを応用する力があることを示したと説明している。