世界最古の王室の長、天皇陛下の「お気持ち」に海外も強い関心 注目のポイントは?

 天皇陛下が象徴天皇としてのご自身のあり方や、お務めで重視していること、今後もそれを果たし続けられるかといった点について考えてきたことを、国民に対し直接語られた「お気持ち」のビデオメッセージが8日、公開された。海外メディアの関心も非常に高く、公開直後から多数の報道がなされた。

◆国民に直接語りかける異例のビデオメッセージ
 欧米メディアの速報記事を中心に、どのような点が注目されて報道されたかを見てみよう。

 まず、このようなビデオメッセージの形で国民に対し直接発言したこと自体が珍しい、という観点から、「異例のテレビ演説」(インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙、INYT)、「国民へのまれなビデオメッセージ」(ロサンゼルス・タイムズ紙、LAT)などと伝えられた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、東日本大震災後のビデオメッセージに次ぐもので、わずかに2回目だと伝える。

 皇室典範には退位に関する規定がないこと、政治的言動が天皇には認められていないこと、陛下が退位について言及した場合、政治干渉とみなされる恐れがあることなどは、どのメディアも伝えている。それゆえ、陛下は退位という言葉は使用しなかったが、INYTは、メッセージは誤解の余地のないものだったと語っている。すなわち、陛下自身が退位させてほしいと頼んだ、というのだ。INYTやBBC、LATやブルームバーグなどは、退位は陛下の望み(wish)だと伝えている。INYTは、陛下は事実上、(皇室典範改定などの)ルール変更を国会に頼んだとも語っている。

 その理由として、陛下が2003年に前立腺がん摘出手術、2012年に心臓・冠動脈バイパス手術を受けたことや、高齢による体力の低下を感じており、今後も引き続き職務を全うできるか心配しているという側面を、INYTやBBC、LAT、ブルームバーグは強調して伝えている。

◆退位を可能にするための論議が別の問題を生む?
 WSJは、陛下はビデオメッセージによって、自らの退位と、皇室制度への戦後最も重大な変更への道を可能性として開いた、と語る。INYTも、もし国会が天皇陛下の退位の願いを認めるとすれば、天皇制の、戦争以来最大の変化になるだろうと語っている。終戦翌年の昭和天皇のいわゆる「人間宣言」に次ぐものというわけだ。

 多くのメディアは、共同通信が今月3、4日に実施した世論調査で、天皇陛下の生前退位について「できるようにしたほうがいい」と容認する人が85.7%に上った(ブルームバーグ)ことを引用し、日本国民がおおむね賛成であることを伝えている。

 しかしINYT、LATは、退位の問題が、女性皇族に皇位継承権を認めるべきかという問題を再燃させる可能性があると語っている。男系、女系の区別については考慮されていない。INYTは、多くの人が、皇室典範は他の面で、特に性別に関して時代遅れだとみなしていると言い切る。皇室典範では男子のみが皇位を継承すると規定されており(実際は「男系の男子」)、この条文はますます論議の対象となっている、と語る。BBCも、女性の皇位継承をめぐる論争が2006年にあったと伝えている。

 またINYTは、譲位のタイミングがいつになるにせよ、皇太子妃雅子さまが皇后になられた際の公務が1つの問題になるだろう、と語っている。

◆天皇陛下のご活動について、海外メディアは
 各メディアは、天皇陛下の人となりやこれまでの活動、国民の間での受け取られ方などにも言及した。INYTは「多くの人に好かれている天皇」、BBCは「崇敬されている82歳の天皇」と呼んだ。ブルームバーグは、天皇陛下は世界最古の世襲制王室の長であると伝え、INYTは、皇室について、世界で最も歴史ある世襲の王室だと伝えた。

 WSJは、陛下は即位以来、国民により近づこうと務めてきたと語る。天皇、皇后両陛下は、自然災害に見舞われた地域を頻繁に訪れ、被災者を慰問している、と伝える。LATも、陛下は「国民の天皇」として知られ、災害の被災者を慰問すること、障がい者、離島の住民など、周辺的な地位に置かれた人々の擁護者となることを優先してきた、と語る。

 またWSJは、少年時代に第2次世界大戦を経験し、戦後はクエーカー教徒のアメリカ人女性の家庭教師に学んだ陛下は、平和と和解の熱心な唱道者であり続けている、と語る。クエーカーはキリスト教プロテスタントの一派で、絶対平和主義を特色とする。WSJは、天皇、皇后両陛下は海外の第2次世界大戦の戦場跡地を何度も訪問している、と伝える。INYTは、両陛下は戦争中に日本が行った破壊の償いをすることを意図した多数の海外訪問を行っているとした。

 ブルームバーグは、陛下はこれまでの28年間の在位期間を通じて、日本が戦争中、父の昭和天皇の名の下で犯した侵略によって傷つけられた国との関係修復に懸命に努めていることで知られるようになっている、と語る。アジア中とその他への訪問で、陛下は繰り返し日本の軍国主義の過去の問題について演説したとしている。

 INYTは、近年、日本の保守政権が、数十年続いた自衛隊への法的制約を緩和しようとしてきたのと同時に、陛下のことを、日本の戦後の平和主義者というアイデンティティーの、静かだが強力な守護者とみるようになっている人たちもいる、と語った。

Text by 田所秀徳