東京五輪招致不正疑惑、海外からは厳しい視線 露呈する政府、招致委、電通の対応のずれ

 2020年東京五輪の招致運動に絡み、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会から当時のIOC委員の息子が経営するコンサルティング会社の秘密口座に、多額の資金が流れたとされる買収疑惑で、フランス検察当局が12日、該当口座に招致委員会から約2億2000万円の入金があったことを確認し、捜査中であることを明らかにした。疑惑は、英紙ガーディアンが前日に特ダネとして報じていたが、その内容の信ぴょう性が増した形だ。

 日本側は、招致は「クリーンな形で行われたと認識している」と菅義偉官房長官がコメントするなど“無実”を主張しているが、ガーディアンに続き、AFP、CNNなどの海外主要メディアも続々と「重大な疑惑」として報じている。海外報道では大手広告代理店の電通が背後で動いていたとも詳報されている中、国内報道は比較的あっさりとした傾向にある。日本流の「臭いものに蓋をする」センスで疑惑をうやむやにしようという意志も見え隠れするが、果たして世界にそれが通用するだろうか?

◆汚職にまみれた親子と招致委の“黒い関係”
「フランスの検察当局は12日、2020年の東京五輪招致への支持を取り付けるために、国際陸上競技連盟(IAAF)のラミーヌ・ディアック元会長の息子に、280万シンガポールドル(約2億2000万円)が支払われた疑いがあると発表した」――。AFPは、このようにはっきりと買収行為を匂わせるトーンで疑惑を報じている。CNNも、フランス検察当局の声明を独自に入手し、東京2020招致委員会から「2013年7月と10月の2度に渡って計約200万米ドルの支払いがあった」と確定的に報じている。

 キーパーソンのラミーヌ・ディアック氏は、1999年から2015年までIAAFの会長を務め、IOCの委員も兼任していた。セネガル出身の元走幅跳選手で、母国やフランスを拠点に活動してきたが、近年は国際スポーツの舞台での汚職疑惑にまみれた人物として有名だ。2011年にはスポーツマーケティング企業から裏金を受け取っていたとしてIOCから警告処分を受け、さらにはやはりガーディアン報道をきっかけに、ロシア選手に蔓延するドーピング問題を隠蔽するために裏金を受け取っていたという疑惑も浮上。これを受け、昨年IAAF会長を自ら辞任した。ロシア絡みの裏金はパリで資金洗浄された疑いがあるとして、現在、フランス当局の捜査が続いている。

 ガーディアンによれば、東京招致委員会からの金の流れは、この資金洗浄の捜査の過程で浮上した。検察の発表によれば、息子のパパ・マッサタ・ディアック氏が所有するシンガポールに拠点を置くコンサルタント会社「ブラック・タイディングス」に、「2020年東京五輪招致」の名目で約2億2000万円が振り込まれた。ガーディアンは、今年1月、このパパ・マッサタ・ディアック氏についても、2016年五輪招致に絡み、「IOCの6人の委員に“小包”を送る陰謀」を主導したとスッパ抜いている。東京五輪招致委員会による送金が買収に絡んでいると欧州で見なされる背景には、このように、ディアック親子は汚職にまみれた人物だという認識が定着していることがある。

◆電通は疑惑を全面否定
「東京招致委員会によるこの7桁の支払いは、日本の強大な広告代理店、電通の役割についても疑念を抱かせるものだ」と、ガーディアンは、日本のマスメディアには多大な影響力を持つ「電通」にも名指しで疑惑の目を向ける。ディアック親子の不正行為を調査した世界アンチ・ドーピング機関の報告書によれば、東京五輪招致委員会による送金があった「ブラック・タイディングス」の口座は、イアン・タン・トンハンという人物が管理する秘密口座だという。この人物はスイスに拠点を置く電通の子会社「アスリートマネジメント・アンド・サービス」(AMS)のコンサルタントを務めていたと指摘されている。ガーディアンによれば、同社は、IAAFと契約を結び、その商標管理を行う会社だ。

 電通は、父ディアック氏が会長を辞任する直前にIAAFとの包括スポンサー契約を2029年まで延長している。ガーディアンは、これらは電通とディアック親子の黒い関係を匂わすのに十分な情況証拠だとみているようだ。招致委員名義での「ブラック・タイディングス」への送金も、IOC委員への買収資金として電通の関与のもとで行われたのではないかという疑いが強く持たれている。

 電通サイドは、ガーディアンの取材に対し、「ブラック・タイディングス」への支払いについては「何も知らない」とし、イアン・タン・トンハンという人物をコンサルタントとして雇ったこともないと答えている。パパ・マッサダ・ディアック氏についても、電通が直接契約を結んだことはなく、あくまでIAAFと同氏の間の問題だと、疑惑を全面否定。AFPも直接取材を行っているが、こちらに対しても電通は「AMSは我々の子会社ではなく、コンサルタントを雇ったことも決してない。フランス当局からの捜査も受けておらず、協力要請もない」と突っぱねている。

◆政府・招致委は「クリーン」だと反論
 疑惑を全面否定する電通に対し、政府の反応はやや異なる。菅官房長官は「2020年東京大会の招致については、クリーンなかたちで行われたと認識している」と送金が買収に当たるという疑惑は否定。ただし、フランス当局と連絡を取っていることは認め、「フランスの司法当局の要請があれば、その内容を踏まえてわが国として適切に対応することになる」と、捜査に協力する姿勢を示している(ロイター)。

 一方、東京五輪組織委員会の小野日子(ひかりこ)広報官は、疑惑の内容について「全く関知していなかった」と、関与を否定。招致委員会の方は、ディアック氏サイドに支払われた2億2000万円は、コンサルティング、招致運動のプランニング、プレゼンの指導。情報・メディア分析などの「プロフェッショナルなサービスへの対価」として支払われたと弁明している(CNN)。

 政府と招致委員会は、送金があったこと自体は認めつつ、その内容に違法性はなかったという線で対抗する方針なようだが、日本側の反応をまとめると、「政府」「組織委員会」「招致委員会」「電通」で認識や対応に温度差あると言わざるを得ない。官民の足並みが揃わないまま疑惑をうやむやにできるほど世界は甘くはないだろう。フランス当局や海外メディアの視線は厳しい。

Text by 内村 浩介