日本を「危機」から救うのは父親の子育て参加、女性の労働環境改善-海外から提言

 世界に類を見ないペースで進行する日本の少子高齢化。昨年9月時点の推計で、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は26.7%だった。これは世界で最も高い割合である。また日本の総人口はすでに減少し始めており、昨年までの過去5年間では94万7000人減少していた。労働力人口の減少は日本経済の足かせとなっている。そして、これらの傾向は今後ますます進む。抑えるすべはないのだろうか。

◆日本の現在の姿は、他の国の未来の姿?
 日本の人口問題への海外の関心は高い。少子高齢化問題では日本は世界の先頭を走っている。経済協力開発機構(OECD)は「OECD国土・地域政策レビュー:日本 2016」の中で、日本以外の多くの加盟国でも急速な高齢化が進み、また人口減少が始まっているが、このような動向は「日本において他のどの国よりも顕著」だと指摘する。日本の経験は、多くのOECD加盟国そして非加盟国が、将来同様の課題に直面した際、大いに参照されていく、と述べている。

 13日には2つの海外メディアに、少子化対策として日本が取るべき方策の提言が現れたが、ともすれば当事者であるわれわれ以上に、切迫感をもってこの問題を捉えている点が印象的だ。米ニュースサイト『Vox』は、日本の人口問題を「時限爆弾」と表現、また「危機」であるという点を強調している。

 OECDの「レビュー」中にある2050年までの人口予測グラフについて、Voxは目玉が飛び出すほどびっくりさせるものだと述べている。そのグラフでは、2050年には人口の約4割が65歳以上の高齢者になるとの予測が示されている。

 米倫理公共政策センターのフェローでありコラムニストのパスカル-エマニュエル・ゴブリ氏は、ザ・ウィーク誌(米版)ウェブサイトに寄せたオピニオンで、日本は字義どおり「消滅しつつある(dying)」と語っている。誰もが、崩壊が差し迫っていることをもはや否定できなくなるまで、人口問題が重要ではないふりをしており、日本とドイツにもこれが当てはまる、と氏は指摘する。日本、そして欧米は、(国の消滅という危機に対し)目を覚ますべき時だ、と呼びかけている。

◆低出生率の原因は、子供を持つ女性に不利な労働環境?
 OECDによれば、人口変動の影響で、1999年から2011年の間、日本のGDP成長率が毎年0.5ポイント以上押し下げられていた。高齢者の増加、少子化による人口減少、労働力人口の割合の低下などによるものだ。

 Voxは低出生率こそが日本の人口問題の核心だと捉えている。そしてそれを招いている原因として、日本の労働環境における「性差別」に大いに責めを負わせることができる、と語っている。

 日本の人口問題の中心的な原因は、日本経済の構造のせいで、女性が、キャリアか、子供を持つかというひどい選択を迫られていることにある、とVoxは断言する。

 1つの会社での終身雇用、年功序列型賃金、産業全体ではなくて会社単位の労働組合という、第2次世界大戦以降存在し続けている日本経済の3つの中心的要素のせいで、女性は労働市場で難しい状況に立たされているとVoxは主張する。こういった制度下では、雇用の流動性が低くなりやすい(転職がしづらい)。「流動性の低い労働市場では、職への忠誠が重んじられる」と、エール大学のフランシス・ローゼンブルース教授(日本政治論)は語ったそうだ。長時間労働できることが当然視され、妊娠や子育てのために労働時間を抑える必要のある女性はそのために職を失いやすく、また雇用主も女性を積極的に雇いたがらない、といったことをVoxは語っている。

 Voxは、克服すべき1つの主要な障害は、疑いなく、母親になるという選択をする日本の働く女性への、実際存在する「ペナルティー」(母親ペナルティー)である、と語っている。

 もちろん、他に少子化を招いている原因はいくつもあるだろうが、これが一因なのも確かだろう。OECDも、非常に低い出生率は、仕事と子育てを両立させることを困難にする労働市場制度および労働慣行と関係していることが研究により示唆されている、と語っている。またOECDは、家庭生活または仕事、どちらかの選択を強いるのではなく、両者を組み合わせることを支援する構造となっている場合、女性は、どうやら子どもをより持つようだと示唆される、と語っている。

◆男性が育児負担をもっと担えば問題は軽減される
 Voxは、この問題を、少なくともある程度軽減するかなり明白な方法は、日本の男性に子育ての負担の一部を引き受けさせることだろう、と語っている。もし男女ともに、子育てのために仕事時間を抑えるようになれば、男女間の条件はこれまでよりいくらか公平になる、としている。けれどもこれは、主に日本社会の伝統的ジェンダー規範の強さのせいで、起こりそうもない、と悲観的に述べている。これは、本人の意思とは無関係に、男性は家庭よりも仕事を優先し、長時間労働をするという役割が課せられているという意味だろう。

 2014年には日本の男性(雇用者)のわずか2.3%しか育児休暇を取っていないが、対照的にスウェーデンでは、父親のおよそ9割が育休を取得するという。日本の父親は、他の先進国の父親と比べてかなり少ない時間、また日本の母親よりはるかに少ない時間を子供と過ごしているとしており、しかもこの傾向がますます進んでいることがほのめかされるとしている。

Text by 田所秀徳