世界がほっこり北海道の無人駅をめぐる人情物語 海外報道には多少の美化も?
北海道のほぼ中央、紋別郡にある、旭川と網走を結ぶJR石北(せきほく)線の小さな駅が、世界中から注目を集めている。ある海外メディアが報じた話に火がつき、世界中のメディアで取り上げられているのだ。
◆中国メディアが取り上げバイラル化
北海道の小さな無人駅が世界中で話題になった発端は、中国中央テレビ(CCTV)が英語で展開しているFacebookページだ。CCTVは1月8日、「ハリー・ポッターの9と3/4番線ホームなんか目じゃない、この駅の乗客はたった一人」という見出しで、上白滝駅と唯一の利用者である女子高生の物語を写真付きで投稿した。投稿文によると、上白滝駅には1日2回、朝と夕方に1往復だけ電車が停まる。JRは3年前、この駅の閉鎖を決定した。ところがその後、毎日高校に通うために利用している乗客が1人だけいることが分かり、閉鎖しないことにしたというのだ。以来、電車はその女子高生のためだけに同駅に停車してきたが、女子高生が今年3月26日に卒業するため、駅は同日に閉鎖されることになるという。
CCTVのこの投稿は、1月25日時点で87,000を超えるリアクションを集め、27,000回以上シェアされている。この投稿には多くのコメントが付いており、これらもまた注目を集めている。「日本は、これを長期的投資と考えているんだ。将来的にこの女子高生が倍にして経済に還元してくれるだろう」、「この話は、教育がいかに大切かを示している」、「国民は政府に頼ることができ、政府は国民を信頼できるといういい事例だ」など、賞賛の声が多い。さらに、近年女性への凄惨な性的暴力の事件が絶えないインドの女性は、「この女の子は、女性が尊重もされずモノ扱いされるインドに生まれたんじゃなくて運が良かった」とコメントしている。
◆シンガポール紙、「美化しすぎ」と異論を展開
CCTVを引用する形で、英国の高級日刊紙テレグラフやオーストラリアのシドニーモーニングヘラルド、インドのインド・エクスプレスなど、世界中のメディアが取り上げた。どれもCCTV同様、雪に包まれた日本の田舎で展開された小さな駅と女子高生の温かい関係を伝えている。ただ、これに異を唱えるメディアが現れた。シンガポール最大の高級英字日刊紙ストレーツ・タイムズだ。
CCTVの投稿の翌日(1月9日)、CCTVの投稿内容を紹介した上で、「美化されている」という記事を掲載したのだ。台湾のタブロイド紙「蘋果日報(りんご日報)」を引用する形で、「この女子生徒が電車に乗っているのは旧白滝駅からで、乗客は他に生徒が10人ほどいる」としている。さらに、記事のように1日1往復ではなく、帰りは3本あるという。記事ではさらに、「りんご日報は、JRが利用者の少ない上白滝駅、旧白滝駅、下白滝駅の3駅を2016年3月に閉鎖することを確認しているが、これは女子高生の卒業とは何の関係もないかもしれない」と続けた上で、「(真実ではない)この話がどう始まったのか不明だが、日本の消えゆく田舎町と心温まる話は宮崎駿の映画を彷彿とさせ、これが話の広まりを助長したのかもしれない」と結んでいる。
◆日本のメディアから見えた真実
では、事実はどうなのだろうか。時刻表を見ると、上白滝駅は7時4分と17時8分の1日1往復。一方で、旧白滝駅は午後は停車する電車が若干多く、14時台、16時台、20時台の3本ある。JR北海道は、上白滝駅や旧白滝駅の利用客数を非公開としているが、1日に計4回電車が停車するということは、旧白滝駅は必ずしも前述の女子高生のためだけにこの駅に停車しているわけではない可能性もある。やはり、この話は「美化されている」のだろうか。
地元の北海道新聞は2015年7月22日付けの記事で、旧白滝駅を利用して遠軽高校に通う女子高生の実名とともに、「私が卒業したら廃止になるかもしれないと聞いていた」という談話を掲載している。同紙は「同校によると、上白滝、下白滝の各駅を利用する遠軽高生はいない」としている。
さらに今年1月12日、NHK札幌放送局のニュース番組内のコーナーで、閉鎖される旧白滝駅と前述の女子高生が取り上げられた。ここでは、1日4本の便は、ある一人の乗客(つまり、この女子高生)に便宜を図ったものだとしている。さらに、駅廃止の話はこれまでも何度となく出たが、地元の住人が、この女子高生が卒業するまでは、と働きかけたという。
こうした記事から判断すると、ストレーツ・タイムズの指摘通り、この女子高生の利用駅は上白滝駅ではなく旧白滝駅だ。ただし、利用客はやはり女子高生以外、ほとんどいないようだ。そして、利用客の少ないなか旧白滝駅に電車が停車し続けた理由は、JR北海道の計らいというより、地元住民がこの駅や女子高生に寄せる愛情がそうさせたという方が正しいのかもしれない。
いずれにせよ、海外で伝えられているJR北海道の駅と女子高生のこの物語は、事実と若干の相違があることは否めない。しかしもしかしたら、遠い海外の国でこのニュースを読む人たちにとっては、駅の違いや1日の本数のちょっとした違いは、あまり大きな問題ではないのかもしれない。雪深い田舎の美しい景色と、女子高生を取り巻く温かい人情物語が紛れもない事実なら、世界の人たちに「世の中まだ捨てたもんじゃない」という思いを抱かせるのに十分だったのかもしれない。