個人の自由より家族の絆を重視するのは変? 「夫婦同姓は合憲」に対する海外の報道
夫婦別姓は認められるべきという5人の男女の訴えに対し、最高裁は16日、夫婦別姓を認めない民法の規定は合憲だという判断を下した。今や日本は、「夫婦が別の氏を称することが違法」となっている数少ない先進国のひとつだ。海外メディアも今回の最高裁の判断に大きく注目し、この判断が男女平等、女性の社会進出を促す流れに逆行するのではと、懸念を示している。
◆今や別姓禁止は先進国では珍しい
海外メディアは特に「男女平等」の観点から疑問符を付けている。
英ガーディアン紙は、判決は日本における女性の権利を逆行させるものと見られるだろうと指摘。日本は夫婦別姓が違法である数少ない先進国のひとつで、国連からも、女性に対する差別だとして、法改正を求められてきたと述べる。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、夫婦同姓が決まったのは1898年であるとし、これまで何十年も司法、立法の場で討議されてきたのに、制度自体は生き延びてきたと説明する。ついに最高裁まで来たが、15人のうち10人の裁判官が合憲と判断したと述べ、結婚後も今までの姓を使いたいと願う女性にとっては打撃となった、と残念さを表した。
ウォール・ストリートジャーナル紙(WSJ)は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」という民法750条は、男性が妻の姓を名乗ることも認めており、うわべでは中立に見えるが、現実として96%の夫婦が夫の姓を使用していると指摘。ガーディアン紙もこの点に言及し、日本が男性中心の社会であることの反映だと述べている。
◆家族重視が足かせに
ウェブ誌『クオーツ』のレポーター、キャシー・ワーバー氏は、日本以外を見渡せば、夫婦は異なる決定をすることがますます増えたと述べる。自らの姓を保持する、互いの姓をつなぎ合わせる、また夫が妻の姓を名乗るなど、様々なオプションが話し合われているらしい。「伝統」の存在しない同性婚もより認知され、活発に議論されているとする同氏は、選択はたくさんある時代なのに日本にはそれがないと指摘。同姓維持の背後にあるのは「家族のつながり」だとし、夫婦同姓が、家長制度のテコ入れになっていると述べる。
ガーディアン紙も、夫婦別姓は伝統的日本の家族制度にダメージを与えるものだと保守派の政治家やコメンテーターが論じていることを伝え、日本においては結婚が個人間ではなく、家族間のものであると説明する。憲法学者の高乗正臣氏は、「別姓を許すことは社会の安定、秩序の維持、社会福祉のベースを壊すことになる」と述べ、「名前が家族をつなぐ最良の方法」と語っている(ガーディアン紙)。
◆女性活躍にも水を差す
各紙は、夫婦別姓を認めないことが、安倍首相が推進しようとする女性の社会進出の障害になり得るとし、働く女性に生じる問題を指摘している。『クオーツ』は、キャリアの途中で姓を変えることにより、大事なコネを失うリスクや、いままでの業績が分かりづらくなるなどの弊害を上げる。今回の裁判で、夫婦別姓を認めないのは違憲だという立場を取った岡部喜代子裁判官は、今はネットで誰かの名前を検索することが世界的に出来る時代だとし、結婚前の名前の有益性と必要性は高まっていると述べた(WSJ)。
裁判で夫婦同姓は合憲とした寺田逸郎裁判長は、職場での旧姓使用は広く認められていると指摘したが、WSJは、法的な名前と異なるため証明のための書類が必要になるなど、余分な手間がかかると指摘。こちらも完全な解決策にはなり得ないことを示唆している。
『クオーツ』のワーバー氏は、一部の女性にとって夫婦同姓は家族のつながりを意味するが、別の女性にとって名前を変えないことは、自分のアイデンティティの問題、または歴史的に女性の自主性を消してきたシステムへの抵抗であると述べる。女性の社会進出に関わる問題では、今回の裁判は小さな戦いに見えるかもしれないが、「名前は力を持つもの」と同氏は指摘し、判決が安倍首相の女性活躍推進を害するものだと見ている。