“時代遅れだが大きな一歩” 渋谷区の同性カップル「証明書」を海外が評価する理由とは
渋谷区は5日、自治体として全国で初めて、同性カップルを結婚に相当する関係と認める「パートナーシップ証明書」の発行を始めた。法的拘束力はないが、証明書をもっているカップルを法的に結婚している夫婦と同等に扱うよう、区は区内の事業者などに求めている。海外メディアは、日本のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)への認識の現状とともに、これを伝えている。
◆同性カップルへの不平等の撤廃を目指して
渋谷区では、同性カップルを結婚に相当する関係と認め、その証明書を発行することを含む条例が今年3月に成立していた。今回、その運用が始まったものだ。
証明書の対象となるのは、区内在住の20歳以上のカップルで、申請には2種類の公正証書が必要となる。互いを後見人とするものと、共同生活のあり方について合意を行ったものだ。
また同日、世田谷区も、同性カップルからの「パートナーシップ宣誓書」の受け付けを開始した。こちらは証明書は交付されないが、「受領証」が発行される。
渋谷区の条例は性的少数者への差別を禁じている。同性カップルが、結婚している夫婦と同等の扱いを受けられないといった不平等を解消することを狙いの一つとしている。具体的には、病院で(患者の意識がなく承諾が得られないなどの場合に)家族ではないという理由で面会を断られたり、不動産賃貸で難色を示されたりするシーンなどが想定されている。区はそういった区内の事業者に対して是正勧告を行い、それでも従わない場合は事業者名を公表するとしている。
CNN(1)は、証明書は主に象徴的なものであり、企業に対し、結婚と同等の権利を認めることを奨励するものだ、としている。
◆同性愛者の権利問題への認識を高めた一歩
海外メディアは、日本の性的マイノリティーをめぐる認識の現状にかんがみて、特に権利問題への認識を高めたという点で、渋谷区の取り組みを意義あるものと評価しているようだ。
条例が可決された当時のCNNの記事(2)は、日本で同性ユニオン(婚姻に相当する関係)を認めるための、小さいけれども潜在的に重要な一歩だと評している。渋谷区の決定は、今のところまだ異性婚と同等のものではないが、この措置が、同性愛者のコミュニティーの結婚の平等を促進する始まりとなることが期待されている、としている。
ロイターは、日本では(同性愛者であることを隠さない)オープンリー・ゲイであることは、相変わらずたいていタブーだが、渋谷区(と世田谷区)の取り組みは、同性カップルにとっては大きな一歩である、としている。
また、アメリカでは全州で同性婚が法的に認められており、それに比べれば渋谷区の措置は些細なことに見えるかもしれない、しかし今年、この措置の条例が可決されただけでも、平等について前例がないほど談論を風発し、他の自治体が同様の措置を検討する道を開いた、とロイターは伝えている。
◆語る雰囲気ができあがることで性的マイノリティーのニーズも浮き彫りになっていくか
性的マイノリティーの権利と平等に関する取り組みは、日本ではまだ端緒についたばかりだという認識も、欧米メディアからはうかがえる。
CNN(1)は、日本には未来派のイメージがあるが、ジェンダー、マイノリティー、LGBTの権利についての社会的見解に関しては、アメリカなどの欧米各国に比べると、時代遅れに見えるかもしれない、と語っている。
AFPは日本の現状について、性的マイノリティーグループをより広く受け入れようと、徐々に行動を起こしている、と語る。日本は同性愛に対しておおむね寛容だが、同性愛者に対する具体的な法的保護が存在しない、と指摘した。CNN(1)は、日本にはLGBTの人たちを差別から保護する国の法律がいまだにない、と指摘している。
日本の性的マイノリティーにとっての困難は、大っぴらに語れる雰囲気が社会にないことだという旨の指摘も、複数メディアで見られた。
CNN(2)は、LGBTコミュニティーに対するあからさまな差別は日本ではまれだが、その影響は隠れて存在する可能性があり、同性愛者はしばしば、自分たちが不利な立場にあると感じている、と伝えている。多くは雇い主、同僚、家族、友人に自分のセクシャリティーを隠している、と語っている。
ロイターは、LGBTコミュニティーは日本ではずっと、ほとんど目に見えない存在であり続けており、法的に認められた同性婚は相変わらず遠い夢である、と語る。LGBTの権利推進活動を行っている松中権氏は渋谷区の条例制定について、「渋谷のLGBTコミュニティーにとって重要なことは、この決定により、自分たちの存在が社会の中で目に見えるようになるだろうことだ」、「この決定は渋谷区民が、LGBTの人たちがどのような問題に直面しているかについて、学んで知ることの強い原動力になるかもしれない」とCNN(2)に語っている。
語られないことによって、社会から存在しないかのように扱われてしまう、という実態が今のところはあるようだ。そのため、性的マイノリティーが抱えているニーズに、なかなか照明が当たりづらい、ということにもなる。
CNN(1)は、日本にはLGBT問題に対して宗教面から大きく広がった反対はないけれども、単に認識の欠如がある、と活動家らが指摘していると伝える。同性愛者であることについて、現代日本では大っぴらに話題にされることはまれであり、多くのLGBTの人たちは、秘密の生活を送り続けている、としている。
その点、今回の渋谷区、世田谷区の措置は、LGBTが地域社会に生きるメンバーであることを改めて確認させるものだったといえよう。渋谷区の条例案を区議会に提出した桑原敏武・前渋谷区長は、条例成立時の会見で、「拙速という批判の向こう側には、性的マイノリティーの人々が身近にいることを知らない状況がある」と語っていた(産経ニュース)。
ロイターは、日本の若者層は概してLGBTの権利を支持している、と語っている。LGBTへの認識は、若者層から先行的に広がっているのかもしれない。