SEALDsを海外はどう報じたか?ファッショナブル、極端に礼儀正しい、西洋の影響…
19日、集団的自衛権の行使を可能にすることなどを盛り込んだ、安全保障関連法が参議院で可決された。今後の東アジア情勢を鑑みれば、欧米にとってもこの安全保障条約の問題は非常に重要であることは間違いない。日本各地でこの法案可決に反対するデモが行われており、多くの若者たちを動員した「SEALDs」は国内外で注目された。1970年代の安保闘争の挫折以降、若者たちによる大規模な政治活動はなりをひそめていたこともあり、日本国内でも大きく取り上げられていたが、欧米のメディアはSEALDsをどのような集団として報道したのだろうか。欧米のメディアの論調を追った。
◆デモ参加者には「ファッショナブル」な若い女性が多い
イギリスのメディアは今回のデモを「ファッショナブル」で「ノーマル」と紹介する傾向にあるようだ。イギリスの左派系クオリティペーパーであるガーディアン紙は、一連のデモを取り上げ、今回のデモが中高年主導のものではないことを伝えた。同紙は記事冒頭に、マイクを持って叫ぶSEALDsメンバー、橋本紅子氏の写真を大きく掲載し、「デモをするのは、ある程度の年齢を超えた、変わりもの、もしくはマルクス主義者というイメージに、SEALDsは挑戦している」と報道している。同紙は冒頭の写真以外にも、ニット帽をかぶりながら拡声器を持つ同氏のポートレートも併せて掲載し、「ファッション産業の仕事に従事している」とのキャプションを付した。同紙は上智大学の中野晃一教授に取材しているが、「政治的であっても、ファッショナブルかつ普通の人でいられる。SEALDsはそうしたイメージを提示してみせている」とのコメントを紹介しており、SEALDsの「ファッショナブル」で「普通の若者」だというイメージを補完している。また、同紙はデモに参加した男性の例として、選挙権を持たない二人の16才の高校生のポートレートとインタビューも掲載しているが、SEALDsの代表的存在である奥田愛基氏には触れていない。同紙は、橋本氏以外にも、中川えりな氏ら複数の女性メンバーのポートレートとインタビューも掲載し、終始普通の若い女性たちがデモに参加しているという点に焦点をあてて報道した。
◆SEALDsのデモは「極端なまでに礼儀正しい」
国際政治と経済を中心に扱うイギリスの週刊新聞エコノミスト紙の記事も、ガーディアン紙同様、SEALDsを「ファッショナブル」というキーワードを用いて紹介している。一方でエコノミスト紙は、SEALDsの中心的メンバーである奥田愛基氏の存在についても紹介するなど、女性メンバーのポートレートを中心に取り上げたガーディアン紙とは若干異なる報道姿勢を見せている。エコノミスト紙は、SEALDsが「日本では右翼的なブロガーによって、韓国人あるいは中国のスパイ、あるいはそれよりさらにひどい表現で糾弾されている」と、日本の大手新聞記事があまり触れない、しかしSNSや巨大掲示板を利用している日本人であれば一度は目にしたことのある、ネット上での中傷についても隠さずに取り上げている。また日本の政府関係者筋が、SEALDsの若者を日本共産党のメンバーだとしたことと、それを否定する奥田氏の見解を併せて掲載している。そのほか、「安保関連法に反対するママの会」とSEALDsとの連帯や、安倍政権に追従する公明党とその支持母体である創価学会の現在の関係についても触れるなど、デモの内容について広範かつ簡潔に伝えているようだ。なお、同紙は、SEALDsのデモを、死者を出した過去の安保闘争のデモに比べれば「極端なまでに礼儀正しい」と評している。
◆欧米メディアはSEALDsやデモに好意的
以上の英メディアでは、どちらかと言えばSEALDsの若者たちの意見をそのまま掲載するような論調が目立つ。また、安保法制化の前提として中国や北朝鮮の脅威を紹介する記事はあっても、日本の役割が拡大することを肯定的にとらえる保守派の意見を代弁する記事は少ない。先日アメリカ大統領選挙に関連して共和党代表指名争いでトップに立つドナルド・トランプ氏が、日米間の安全保障に触れて、日本が出動することがないことを指摘したうえで「不公平な条約」と批判したことについて、アメリカの支援者たちが賛同し場内が沸くシーンが日本でも報じられた。そうした一部でのムードに反し、多くの欧米メディアはなぜか左派寄りだと言ってもいいのかもしれない。こうした報道に反発した海外ユーザーたちから、各記事に批判的なコメントが寄せられているケースもあるようだ。
なお、アメリカの日刊経済新聞ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、SEALDsの団体名が英語で名付けられていることに触れたうえで、「西洋の影響」を指摘。続けてSEALDsには髪を染めているメンバーがおり、黒髪が多い日本社会では目立つ存在としたうえで、メンバーがヒップホップのライムにのせて抗議活動を行っていると報道した。デモにヒップホップがフィーチャーされている点については、エコノミスト紙など他のメディアも触れているが、これを「西洋の影響」という文脈で紹介しているのはWSJだけと思われる。また、WSJは安倍内閣の支持率低下についても触れているが、「デモの影響かどうかはわからない」として、デモの影響か否かについては明言を避けている。
最後になるが、アメリカのリベラル系ニュースサイト、ハフィントンポストの記事では、マイクを取ってデモ隊をリードするSEALDsの福田和歌子氏の写真とともに、ウジェーヌ・ドラクロワの海外作品「民衆を導く自由の女神」の画像が掲載されている。言うまでもなくこの絵画は民衆を導く果敢な女性のイメージを提示しているわけだが、いかにSEALDsのメンバーに若く勇気ある女性が多いとはいえ、こうしたかたちで彼女たちを取り上げるのはあまりに安易なのではないか。洗練されているとは言い難い記事は、SEALDsにとってもプラスになるとはいえないだろう。海外メディアは割り切って思い切った報道をすることが少なくないが、保守派であっても左派であっても、安易なプロパガンダや印象操作に走らず、事実を伝えるスタンスを基礎としてほしい。