新国立競技場:“日本人のように無駄な建築物にはNOを”英紙が自国民を鼓舞
新国立競技場建設計画の迷走が止まらない。当初の見積もりを大幅に上回る2,520億円が必要になると発表された後、国民から批判が噴出。17日に安倍首相が計画の白紙化を表明した後も、これまでの見通しの甘さが次々と露呈している。この国家的大騒動を、海外メディアが報じている。
◆計画撤回も、責任は誰に?
AFPは、主要メディアの報道を引用。当初のデザインに関してすでに発注済みの契約が約59億円分あり、「まだ、れんがの1つも積んでいないのに」日本はそのほとんどを支払わなければならず、今後請負業者が訴訟を起こす可能性もあると述べている。
菅官房長官は、原因究明のため第三者委員会を設置すると述べたが、今回の騒動の責任が誰にあるのかについては答えずじまいだった、とAFPは指摘。さらに、東京五輪の組織委員会の会長である森元首相に至っては、「北京のスタジアムは460億円と言うが、北京と東京の人件費を比べられるのか。公平な比較と言えるのか」と述べ、日本の建設コストは他国よりも高くつくことを何度も強調したと報じている。この期に及んでも、責任の所在を明確にせず、膨らんだ建設費の言い訳をする日本の姿勢を暗に批判した形だ。
◆デザイン自体が不評だった
米ウェブ誌『Quartz』は、巨額の費用以外にも、ザハ・ハディド氏のデザインを選択したこと自体に問題があったと述べている。同誌は、ザハ氏の複雑で近未来的なデザインと明治神宮に近い東京の歴史的地区にある建設地のミスマッチを指摘。さらに、建築物の高さを15メートル以下に制限するこの地区の規制も、あからさまに無視されていたとし、2013年には著名な建築家たちによる、建設反対の署名運動が起きていたことにも触れている。
同誌はまた、ザハ氏監修の現在のデザインが、ソーシャルメディアにコラ画像を投稿する「新国立競技場クソコラグランプリ」で、笑いの種となっていることを紹介。スタジアムはヘルメット、トイレの便座、掃除機のルンバなどに見立てられ、批判の対象とされていることを報じている。
そのような画像を見て「非常に力が沸く」と述べるのは、英ガーディアン紙のコラムニスト、ミシェル・ハンソン氏だ。同氏は、「国民の声」を聞き、計画を白紙に戻した安倍首相の英断を評価。お偉い建築家たちにへつらえば、彼らはますます浮かれ、その建築物はさらにとっぴで役立たずになると持論を述べる。同氏は、景観を壊し、金持ちの欲求を満たすだけの建物を作ることに怒りを覚えるとし、一方で貧しい庶民の住居は劣悪だと暗に行政や建築主を批判。日本人のようにイギリス人も声を挙げ、無駄な建築物を拒絶すべきだと述べている。
◆次の開催候補も注目
さて、2024年の五輪招致に名乗りを上げたボストンでも、白紙撤回のニュースはすぐに話題となり、ソーシャルメディアで、コストを理由に立候補取り止めを支持する意見が広がった(ボストン・グローブ紙)。
ボストン・グローブ紙の編集長補佐、マーク・ポティエ氏は、2,520億円の大失敗から学ぶことは確かにあるとはしながらも、単純な比較はできないと指摘。ボストンは仮設スタジアムを検討しているが、東京の場合は、より実用的な施設の建設をという国際オリンピック委員会の指示とは合致しない近未来的なデザインを採用したため、工費はもともと膨らんでいたと述べる。さらに、日本は昨年末に不景気から脱したばかりなのに対し、アメリカ経済は音を立てて前進中だとし、日米の状況の違いを説明した。
何かと出費のかさむオリンピック。東京の教訓が、次の開催都市で活かされることを願わずにはいられない。