日本企業、捕虜の強制労働について初の謝罪 なぜ今なのか?海外メディアが考察
三菱マテリアルは19日、第2次世界大戦中、同社の前身・三菱鉱業が、米国人捕虜に強制労働をさせていたことについて、元捕虜、遺族らに米国で謝罪した。強制労働問題での日本企業による公式の謝罪は初とされる。欧米メディアでは謝罪について「画期的」「歴史に残る」などと肯定的に評価しつつも、謝罪が行われるまで70年という長い時間がかかってしまったことを惜しむ声が多い。
終戦から70年を経たこのタイミングで謝罪を行ったことに関し、その理由について国内外の多くのメディアが関心を寄せた。毎日新聞は、「捕虜 日米の対話」という団体からの手紙がきっかけだったと報じている。
◆終戦から70年を経ての謝罪
三菱マテリアルの木村光常務らは19日、米ロサンゼルスにおいて、元捕虜のジェームズ・マーフィーさん(94)と面会し謝罪した。AP通信によると、同社の謝罪の対象である元捕虜のうち、存命中で、連絡先が判明したのはわずかに2人だけで、さらに健康上の理由によってマーフィーさんだけが出席したという。
面会後の式典で、木村常務は「当時の労働環境は大変厳しいものがあり、戦争捕虜の方々には大変なご苦労を強いてしまいました。過去の不幸な出来事の道義的な責任を痛感しています」と述べたという(NHK)。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙によると、マーフィーさんは、自分や他の捕虜は、同社からの「真摯(しんし)で、心からの」謝罪を70年間待っていたとし、「今日は輝かしい日だ」と語ったという。
◆時間がかかってしまったことは残念という見方
FT紙は、三菱マテリアルが歴史に残ることをしたと語り、謝罪を画期的と位置づけた。一方、元捕虜や運動団体はすでに何十年間も、多くの日本企業に謝罪を求めていたとして、実現までに時間がかかったことも指摘する。そして、三菱マテリアルの岡本行夫社外取締役が、「もっと早く謝罪しなかったことについても、私たちは謝罪しなければなりません」と語ったことを伝えている。
英エコノミスト誌は、謝罪が行われるまで時間がかかったと語り、FT紙以上にそのことを強調して報じているようだ。岡本社外取締役の発言については、元捕虜の大部分がすでに亡くなってしまっていることを認識した上でのものだとしている。
◆民間企業も収容所の運営などに関わっていたとする見方
捕虜の強制労働については、日本政府が2009年と2010年に謝罪しているが、企業の謝罪を求める声は変わらず存在し続けたようだ。エコノミスト誌は、日本政府が行った謝罪には、捕虜を強制労働させた民間企業による(罪の)自認が含まれておらず、一部の元捕虜は空疎だとして批判していた、と伝えている。
ロイターは、戦時中、政府と、三菱を含めた民間企業が連携して、捕虜に強制労働をさせていたことに焦点を当てている。今回の式典は米ロサンゼルスの人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」の施設で行われたが、同団体のエイブラハム・クーパー副所長によると、戦時の労働力不足を埋め合わせることを求めた日本政府と民間企業によって、約1万2千人のアメリカ人捕虜が強制労働に送り込まれ、そのうち1100人以上が死亡したという。
また米ワシントンの非営利研究センター「アジア・ポリシー・ポイント」によると、戦時中、6ヶ所の捕虜収容所が三菱グループと関係していた。そこでは米国人1000人以上を含め、2041人の捕虜が収容されていたという。三菱鉱業は終戦時点で、うち4ヶ所を「運営」していた、とロイターは同センターの言を伝えている。そこでは876人のアメリカ人捕虜が収容されていて、うち27人が死亡したとのことだ。
◆なぜ今、謝罪が行われたのか
なぜ、終戦70周年を迎えるこのタイミングで謝罪が行われたのか、多くのメディアが関心を寄せている。
国内報道では毎日新聞が、三菱マテリアルは、徳留絹枝氏が代表を務め、企業に元捕虜への謝罪を呼びかける団体「捕虜 日米の対話」から昨年7月に受け取った手紙を契機として、「元捕虜が高齢なので、できるだけ早く謝罪したい」と判断したことに触れ、内情に踏み込んだ報道をしている。
海外メディアでは、外面から、いろいろと考察を試みている例が多いようだ。英テレグラフ紙は、三菱(グループ)はアメリカでかなりの事業利益があり、特に(謝罪が行われた)カリフォルニアでは、高速鉄道事業の入札が近づいている。そこで、同社が良き企業市民であることを示すことを迫られている、という認識があると伝えている。
エコノミスト誌は、三菱マテリアルの謝罪のタイミングは専門家らを困惑させている、と語る。ある専門家は、日本の産業遺産の世界遺産登録に関して、韓国が強硬な態度を取ったこととの関係について考察している。
近づいている安倍首相の70年談話発表と絡めて報じ、そちらではどのような謝罪の表現があるのかといった話題に移行する例も多かった。
また、中国では現在、三菱マテリアルなどを相手取って賠償を求める訴訟が行われていることを、複数のメディアが伝えている。