辺野古ジュゴン保護訴訟、米地裁が棄却「基地移設止める権限ない」 地元紙反発
沖縄県の米軍普天間飛行場は、日米両政府の合意に基づき、県内の辺野古沿岸部への移設が進められている。しかしながら県民を中心とした反発は根強い。この移設工事により、辺野古周辺の海に生息するジュゴンの生存が脅かされるとして、環境保全や工事の差し止めを求める訴訟が、アメリカの連邦裁判所に提起されていた。13日、サンフランシスコ連邦地裁は、「工事を差し止める権限が裁判所にない」として訴えを棄却した。
◆ジュゴンの生息環境を守るため米裁判所に提訴
世界自然保護基金(WWF)によると、沖縄の海はジュゴンの生息域の最北限だ。1997年に発表された日本哺乳類学会のレッドデータブックでは、同海域の生息数は50頭以下とされていたという。環境省が発表している哺乳類レッドリスト(2012年版)では、「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い」とされる「絶滅危惧IA類」に分類されている。またジュゴンは、文化財保護法で天然記念物に指定されている。
「ジュゴン訴訟」は2003年に提訴された。原告となったのは、米環境保護団体、日本の市民団体などだ。米「国家歴史保存法」は、米政府に対し、世界各国の文化財保護を求めている(琉球新報)。原告は、ジュゴンもこの法律で保護される「文化財」だとして、米国防総省、国防長官を相手取り、サンフランシスコ連邦地裁に訴えを起こした。
同地裁は、同法に基づいたジュゴンの保護が考慮されていない、との原告の主張を認め、2008年、国防総省にジュゴンの保護措置についての報告書を提出するよう求めた中間判決を下した。その後、裁判は中断していたが、国防総省は2014年4月、「基地建設はジュゴンの生息に影響しない」と結論した報告書を提出した(沖縄タイムス)。また同年8月、原告団が辺野古の工事差し止めを求める追加申し立てを提出し、裁判が再開された。
◆裁判所は「権限がない」として司法判断を回避
これらの訴えに対して、サンフランシスコ連邦地裁は、「米政府が条約上の義務として、日本政府と協力して進めている在外米軍施設の建設を、差し止める権限が当裁判所にはない」として、これを棄却した(AP通信)。国防総省は、憲法の規定により、司法は外交や防衛問題に介入できないとした「ポリティカル・クエスチョン・ドクトリン」(政治問題の法理、または統治行為論)が、この訴訟に適用されると主張して、棄却を裁判所に求めていたという(琉球新報)。裁判所の今回の決定は、その主張にのっとったものだと言えよう。
原告団の中の米「生物多様性センター」は上訴する意向だと、担当者がAP通信に対して語っている。
琉球新報は社説で、ジュゴンの生息する貴重な自然環境を保護するという訴えの趣旨が脇に追いやられ、裁判所の権限の問題だとされたことに対して、論理のすり替えだと不満を表した。上級審では、国家歴史保存法の理念に照らして、十分な審理が行われるべきであるとした。
◆基地移設の反対運動を伝える海外メディア
AP通信は、この訴訟の経緯を含めて詳しく報じた。何年も続いているこの争いは、普天間飛行場の移設という決定をめぐるもので、移設は、米軍の沖縄駐留の縮小へとつながる、日米両政府のより広範な取り決めの一環だ、と背景を説明する。
インターナショナル・ビジネス・タイムズ紙は、辺野古移設が「議論の的になっているアメリカの計画」だと述べ、抗議活動が沖縄県内で行われていることを伝える。反対派は、普天間飛行場の運用停止、海兵隊の沖縄からの退去も求めている、と伝えた。
イランの国営英語ニュース放送局「プレスTV」も、多くの日本人が(基地移設という)アメリカの計画に憤っており、米軍が沖縄から完全に立ち去ることを要求する抗議デモを行っている、と伝えている。