映画『アンブロークン』、人肉食など描写に日本人が抗議 “証言疑うのか”と海外から反論

 アンジェリーナ・ジョリーの監督作品「アンブロークン」が、全米でクリスマスに公開される。この映画が描く内容に、日本の愛国主義者たちが猛反発している、と海外メディアが報じている。

◆残忍な戦争犯罪を描写
 原作は、ローラ・ヒレンブランド作の「アンブロークン:勇気とサバイバルの驚くべき実話」で、2010年に出版された。主人公は、元オリンピック・ランナーの米兵、ルイス・ザンペリーニで、1943年5月、搭乗機が墜落し、日本軍の捕虜となったが、拷問に耐えつつ終戦まで生き延び、母国に奇跡の生還を果たした。ワシントンポスト紙(WP)によれば、戦後は日本人とも和解し、昨年97歳で亡くなった。

 原作では、捕虜収容所の目を覆う惨状が描写されており、英テレグラフ紙は、日本の愛国主義者たちがそれを否定していると述べる。特に、捕虜が「殴りつけられ、焼かれ、刺され、棒で殴打されて死に至り、撃たれ、首を切られ、人体実験中に殺され、人食いの風習から生きたまま食われた」という描写に憤慨していると伝えている。

◆事実ではないと批判噴出
 テレグラフ紙が愛国主義者の圧力団体と呼ぶ、「史実を世界に発信する会」の茂木弘道事務局長は、作品中の描写は「全くの作り事」で、映画に信憑性はなく不道徳と同紙に述べた。

 ソーシャルメディアのコメントには、アンジェリーナ・ジョリーを、日本を貶める「人種差別主義者」と批判し、日本への入国拒否や上映劇場での抗議を求めるものもあったという。また、Change.orgでは「事実と矛盾する」という理由で、「悪魔」アンジェリーナ・ジョリーの映画の配給阻止を求めるキャンペーンが展開され、8000人以上が署名している(テレグラフ紙)。

◆作品の否定は歴史の書き換え?
 一方、アメリカの非営利団体、「アジア・ポリシー・ポイント」のミンディ・コトラー氏は、戦争捕虜の証言の信頼性を疑うことは、戦犯裁判の信用を傷つけるものでもあると主張。捕虜に対する残虐行為が裁かれた「東京裁判の受諾が基礎に置かれたサンフランシスコ平和条約と、米退役軍人の名誉は守らなければならない」と述べ、アメリカ政府も見過ごせない問題であるとしている。

 WPのオピニオンライター、リチャード・コーエン氏は、日本では特定の重要人物たちが歴史を書き換えようとしていると憂慮する。

 コーエン氏は、「アンブロークン」の中で最も驚くべき部分の一つとして、日本が降伏した後の変わり様を挙げる。少し前なら捕虜を撃ち殺していた警官が、降伏後、アメリカの命令で戦犯を捉える側に回ったのはまさに180度の転換で、この突然の反転が日本文化の特徴だと述べる。ペリー来航で鎖国を解いた後、すぐに近代化した日本は、日露戦争に勝利。第二次大戦後も同様に、アメリカ式民主主義を採用し、戦後の荒廃から抜け出して、繁栄を勝ち取った。

 しかし今、より不吉な転換が進行中だとコーエン氏は述べ、日本経済がまた弱体化したことで、過去の神話を語ることが加速し、中韓など近隣諸国との関係に悪影響を及ぼすと指摘。過去に目をやる修正主義が、将来のためになるのかと問いかけている。

Text by NewSphere 編集部