日本の児童養護は施設偏重? 国際人権NGOが問題指摘、海外メディア注目

 国際人権NGO(非政府組織)のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、今年5月、日本の社会的養護制度を検証する調査報告書「夢がもてない―日本における社会的養護下の子どもたち―」を発表した。報告書の中で、特に問題視されたのは、日本の社会的養護が、施設での養護に著しく偏っていることだ。HRWは日本政府に対し、社会的養護制度を全面的に見直すことを提言している。

 BBC、アルジャジーラといった海外メディアが、この報告書を踏まえて、日本の社会的養護の問題点について報じている。

【社会的養護下にある子どもたちの大半が施設で生活】
 この報告書でいう「社会的養護」とは、「実親、または適切な監護を行いうる保護者を欠いていると政府が判断した児童に提供される養育」である。報告書によると、2013年時点で、全国3万9,047人の子どもが、社会的養護制度の下で生活しているという。そのうちの85%以上、約3万4千人が施設で生活している。残りの約15%の子どもたちは、里親宅、あるいはファミリーホーム(里親を大きくした形態で、1軒の家で5~6人の子どもを養育する)で生活しているという。

 他の先進国に比べ、日本の里親委託率はきわめて低い。厚生労働省の資料によると、“各国の要保護児童に占める里親委託児童の割合”(2010年前後)は、日本が12.0%だったのに対し、オーストラリアでは93.5%だった。その他、アメリカ77.0%、イギリス71.7%。ドイツ、フランス、イタリアは50%前後だった。ただし厚労省は、「制度が異なるため、単純な比較はできない」と断っている。

 厚生労働省は、施設での養護が中心の現状を変えようとしている。同省は2011年、今後10数年間で、施設、里親(ファミリーホーム含む)、グループホームの割合を、それぞれ3分の1にするとの目標を掲げた。実際、里親等委託率は、2002年の7.4%から、2013年3月末には14.8%に上昇しているという。

【なぜ日本では、里親や養子縁組が増えないのか】
 BBCは、施設での暮らしと、里親の下での暮らしが、どれほど異なったものであるかを、ある日本人少女のインタビューを通じて詳しく報じている。彼女の里親は、「日本では、親のいない子どもは、施設にいたほうがいい、という無意識的な見解があるようです」と語る。「『血縁』に関する強い意識があって、他人の子どもを引き取るという考えは、日本人にとっては不自然なことのように思えるのです」と説明している。

 報告書も、子どもの委託先の決定権をもつ児童相談所が、養子縁組や里親制度よりも、いまだに施設を優先していると告発している。里親に預けると、子どもを取られるような気がして、里親よりも施設に預けることを好む実親が多く、児童相談所は、問題の長期化などを嫌って、実親の意向を尊重しやすいという。

 また児童相談所は、既存施設の経済的利益をおもんばかっているという。HRW日本代表の土井香苗氏は、これらを「お役所判断」だと語ったとBBCが報じた。

【施設での養護には、どんな問題点が?】
 施設での問題について、報告書は様々な側面から論じている。具体的に挙げられているのは、子ども同士や養育者からのいじめ・身体的虐待や性的虐待、施設の貧弱さ、愛着関係を築く機会や生活スキルを学ぶ機会が限られている、子どもからの苦情申立制度が充実していないこと、などだ。

 報告書では、現在施設にいる子どもたち、また施設出身者に対するインタビューを実施している。多くの施設出身者が、施設の生活で一番辛かったのは、他の子どもたちからのいじめであると答えた、と報告書は語っている。

 また、報告書は、施設での養護の問題点として、自立に向けた支援の欠如も挙げている。ある人はこのように証言している。

「施設を出て一番困ったのは生活の基本的なことがわからないことです。電気はお金を払わないと家まで送られてこないこと、電車の切符の買い方、マクドナルドでの注文の仕方がわからないなど。普通の家庭の子どもだったら当たり前に体験していることを私たちは知らないで社会に出るのです」

 報告書は、国際条約「子どもの権利条約」が、子どもの完全な発達のために「家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきである」と明言していることを重視している。また、締約国の条約履行状況をモニタリングする国連「子どもの権利委員会」は、「子どもの施設入所は最終手段であり、家族的手段がその子どもにとって不適当であると考えられる場合にのみ行われる」と述べているという。

【虐待を未然に防ぐ、という対策が重要に?】
 アルジャジーラ英語版とアルジャジーラ・アメリカは、アジア太平洋地域の社会問題をテーマとするドキュメンタリー番組「101 East」で、この問題を取り上げた。同局は、日本で児童虐待の報告件数が増加していることを報じている。昨年、全国の児童相談所が対応した児童虐待件数は、過去最多の7万3765件だった。

 虐待を受けた子どもが、親になったとき、自分の子どもに虐待をしてしまうという「負の連鎖」が起きてしまうことがある。アルジャジーラは、かつてそのことに苦しみ、今は多くの女性を支援する立場に回っている女性を紹介している。

 その女性は、日本は、子供を施設に入れることには注力しているけれども、若い女性が良い母親になる手助けをするのに利用できる組織はほとんどない、と語る。「母親たちには、子育てに関する手がかりがありません。しかし、子育てを学べる施設はなく、それが虐待の連鎖を止められない理由なのです」と語っている。

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Text by NewSphere 編集部