原発避難者の自殺、東電に初の賠償命令 130件の原発関連自殺へも影響か=海外報道

 福島地方裁判所は26日、福島第一原子力発電所を管理する東京電力が、震災後にうつ病を患っていた女性の自殺に対し責任があるとの判断を下した。

 裁判所は、自殺した渡辺はま子さんの夫、幹夫さんとその子供らに、4900万円の賠償を支払うよう命じた。はま子さんは、震災で避難を余儀なくされた後うつ病を患い焼身自殺した。

 東電は、政府による問題解決のための制度を通して、震災後の自殺に関連した多くの訴えを解決してきた。しかし、裁判によって賠償を命じられたのは初めてのことだ。

【避難生活に苦しみ自殺】
 渡辺さんは判決を受け、「私たちの気持ちと矛盾のない意義深い判決を下していただいたと思う」「家族の苦悩や苦痛が報われた。家に帰ったら、はま子の仏前に結果を報告し、安らかに眠ってくれと手を合わせたい」(ワシントン・ポスト紙)と述べた。

 渡辺さん一家は、原発から40キロ離れた福島県川俣町山木屋地区の養鶏場で働いていた。この地区は当初、政府の避難指示地区には含まれていなかった。しかし1ヶ月後、放射能による汚染を町が発表。家族は避難所に移った。

 2011年6月に一度、一時帰宅が認められた。次の日の朝、幹夫さんは、はま子さんが庭で死亡しているのを見つけた。事故で養鶏場は閉鎖、生活の糧を失い家も失った。住宅ローンの支払いも1400万円以上残っていた。

 東電は判決後、「福島第一原発事故で福島県住民の皆様とその他多くの方々に多大なご不便とご心配をおかけしていることについて、心からお詫び申し上げます」と謝罪。「渡辺はま子さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます」「判決の内容を精査し、今後も誠実な対応に努めたい」(ワシントン・ポスト紙)と述べた。

【裁判で責任の所在を明らかに】
 広田次男弁護士は判決について、完全勝利だと宣言。「この判決は原発事故による賠償の前例として重要だ」「今日の判断は、今後の裁判に大きく影響するだろう」(ワシントン・ポスト紙)

 多くの家族が東電に対し、似たような状況を訴えている、と海外各紙は報じている。しかし、多くの場合は政府の制度(ADR促進法)を利用して、話し合いで決着をつけるようだ。ただ、東電側は、これまでに何件の訴えが解決し、いくら支払われたのかは明らかにしていない。ワシントン・ポスト紙によると、震災の被害を被ったと訴える避難者の10人のうち9人以上が、裁判所を通さず、直接東電に賠償を請求しているという。

 原発事故に関連した裁判は限られている。その理由のひとつには、日本の裁判所が賠償に関するクラスアクションあるいは懲罰的損害賠償を認めていないこと、またもう一つには、50年前からある「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」が電力会社の責任範囲を制限していることがある、と同紙は指摘している。

 渡辺さんたちは、はま子さんの自殺と将来の収入も含めた賠償を、裁判という手段で辛抱強く東電がその責任を負うことを求めた。

 ロイターは、裁判で争うことは本質的なことだとの、同じく訴訟を起こしている被災者の意見を取り上げている。有罪の判決を得ることは、経済的賠償よりも、福島第一原発の事故に伴う困難について東電の責任を明確にするという意味で重要だからだ。

 判決は、今も事故処理に難儀している東電に、原発事故の責任を負うべきとするもので、その他の賠償請求の動きも活発になると海外各紙は予想している。

【増加している震災関連の自殺者】
 内閣府の26日の発表によると、2011年6月から2014年7月の間に、9つの県で原発事故に関連した130件の自殺があった。その40%は福島県内だ。2011年から2013年では、国全体の自殺者は減少している。しかし、福島県の自殺者の人数は年を追うごとに増えている。2011年は10人、2013年には23人だった(NHK)。

 ロイターは、2011年4月以降福島県では1500人以上の自殺者が出たが、そのうちの50人以上が震災関連と判断された、と報じている。

Text by NewSphere 編集部