和食の文化遺産登録は、むしろ伝統を壊す? 米紙は進化の可能性に着目

 和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、あらためて世界から注目が集まっている。

【世界から見た魅力的な和食】
 ニュースサイト「ウォール・ストリート・チートシート」は、今回の登録を受け、「和食をたしなむ31の作法」と題し、和食文化を紹介した。

 まずは和食の第一歩として、「寿司」から始めるのが最適、とうたう。島国である日本において魚は欠かせない食材であり、知名度も高く、しかもおいしい寿司は初心者にうってつけとのことだ。

 次に代表的な料理として「汁物」をあげ、みそ汁やおでん、けんちん汁などを紹介。繊細な「だし」は覚えるに値すると賞賛している。

 また、細やかな包丁使いになじみの薄い欧米社会に「千切り」を伝える例として、きんぴらや紅白なますをあげた。紅白なますはおせちに添えられることから「New Year’s Salad(新年のサラダ)」という名前をつけられているのも興味深い。

 あるいは和食文化の代表として「お弁当」も欠かせない、とのこと。1つの箱に詰められた栄養バランスの良さに加え、美しい盛りつけや今人気のキャラクターをかたどったものについても言及している。

 ほかにも料理のみならず、緑茶や酒についての説明から、銀座の寿司店主「すきやばし次郎」のドキュメンタリーフィルム紹介にいたるまで、関心の高さが伺えるものとなっている。

【無形文化遺産登録は本当に追い風となるのか】
 一方ニューヨーク・タイムス紙は、今回の登録がむしろ「伝統的な和食」の復権を妨げるのではないかという懸念を指摘している。

 伝統的な和食は、職人が一人前になるまで時間と労力を要する。教わる道も教本も少なく、レシピは門外不出。同紙の伝えるところによると、ユネスコは、それも日本人のアイデンティティと結束力を高めることに重要な役割を担っている、とみているようだ。

 だが近年、若者の嗜好は洋食やファストフードへシフト。政府発表によると、米の消費はここ15年で17%下落し、肉の需要は2006年以来魚を上回っている。懐石業界は、お得意さん離れや旬の食材の価格高騰、弟子の不足から、苦しい状況に追い込まれている。そのため若い料理人は、より早く成功できる洋食へと移行していく傾向があるという。

 そこへやってきた今回の無形文化遺産登録は、和食の復活にベストタイミングで現れたかのように見える。しかし、そこで起きるブームは、むしろ伝統的な和食ではなく、経済効果重視の「より人気がでる形態」へと変化したものになるのではないか、との見方を同紙は示しているのだ。

 例えば、京都の懐石料亭で修行を積んだある職人が独立後開いたのは、リーズナブルでモダンな形態の店。伝統にとらわれず和洋を折衷し、かつコストも抑えた同店では、高級街・銀座においてランチが1000円で楽しめる。

 店主の取り分は少ないが、「経費削減」と「現代と伝統の融合」は、これからの和食界の道標と同紙は指摘する。ユネスコが無形文化遺産を「常に変化し進化するもの」と主張するからには、このような和と洋を行き来する業態こそが、ハンバーガーやピザに対抗し得るのかもしれない、と締めくくった。

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Text by NewSphere 編集部