東京五輪も影響? 福島除染にヤクザがホームレスを送り込む 海外メディアの問題提起とは

 昨年12月30日付のロイターの特別報道をきっかけに、福島の廃炉・除染現場の現状を、海外メディアが報じている。

 以前にも、福島復興事業の行政下請のずさんさを報道したロイターは、今回は日雇い除染作業員のヘッドハンターへのインタビューに成功。ホームレスの男性が、違法な労働条件のもと、除染作業に従事している現状を報じた。

【除染作業現場でのホームレスの労働の実態】
 同記事によれば、この男性は毎朝仙台駅にてホームレス男性らに声をかけ、除染作業員の仕事の「リクルート」をしているという。「リクルート」に成功すると、この男性は、1人あたり1万円の報酬を得るそうだ。ホームレスの除染作業員の時給は、最低賃金と同等またはそれ以下であり、寮代や食費等の給与天引きで実質的な賃金がほとんど手元に残らないケースや、むしろ借金を負うことになるケースもあるという。

 ロシア国営テレビ局『ロシア・トゥデイ』の報道によれば、これらの労働者はその作業内容の危険性にもかかわらず、保険に加入することも、放射能測定機を利用することもできないのだそうだ。

【日本では広く報道されず】
 海外メディアは、この状況を、人権問題と認識した報道を展開。BBCワールド・サービス・ラジオで放送された、同記事の主要執筆者の一人である斉藤真理記者へのインタビューでは、「日本人は彼ら(ホームレス)のこの現状について気にかけているのですか」等、日本人の意識を問う質問が投げかけられた。これに対し、斉藤記者は「気にかけていると思う」と答えていた。

 実際、同日本語記事はアクセスランキング1位で、1000件以上ツイートされている(9日17時時点)。ただ、日本ではこうした現状は広く報道されているとはいえない。

【背景には不透明な行政下請と人手不足】
 ロイターの分析によれば、背景には、行政の復興事業委託業者に対する監督の不十分さと、除染作業現場における深刻な人手不足がある。

 ロイターは同記事にて、監督不足の一因が、2011年に成立した放射性物質汚染対処特措法にあると指摘。同法により、従来道路建設等の公共事業を行う際に委託業者に対して要求されていた基本情報の開示や、国土交通省の認可等の諸条件が、除染作業の委託では緩められた。福島第一原発の除染作業を下請けしている業者名は公表されていないものの、ロイターの調べによれば、放射能汚染が最も深刻とみられる10の市町村と高速道路にて、除染作業に携わる企業733社のうち、56社は国土交通省未認可のものである。

 昨年には、除染作業の委託先であり、建築業界の二番手でもある株式会社大林組の下請け会社が、違法な派遣事業を行ったとして、関係者の逮捕が相次いだ。下請け会社に対する監督が行き渡っていない現状が伺える。山口組や住吉会、稲川会など複数の暴力団関係者が、最低賃金以下でホームレス男性らを福島第一原発周辺の除染作業に従事させたなどとして逮捕されたという。

【東京五輪の影響で人手がさらに不足か】
 前述の斉藤記者によれば、福島第一原発の廃炉・除染作業現場での人手不足は2020年の東京五輪による影響でますます深刻化しているという。以前から、人口全体の高齢化と政府の過去の公共事業支出削減による業界全体の縮小によって建築業界における人手不足が進行しつつあることは指摘されていたが、東京五輪に向けた建築ラッシュにより、労働力が首都圏に流れているという。

 東京電力の試算によれば、福島第一原発の廃炉作業には2015年だけでも1万2000人の労働者が必要とされる見込みである。しかし、政府の発表によれば、現在廃炉作業に従事している労働者数は約8000人であり、総求人数の25%にもなる人員を未だ確保できていない。この需要と供給のギャップを、前述の日雇い労働者たちが埋めているのも、今回報道された問題の背景にあるようだ。

福島第一原発収束作業日記: 3.11からの700日間

Text by NewSphere 編集部