「君の名は。」、英メディア絶賛の理由は? 「ディズニーにはなしえない領域に……」
「君の名は。」が、アニメとしては久々の大ヒット作となっている。8月26日の公開から人気は衰えず、累計興行収入も11月21日時点で189億円を突破し、「もののけ姫」の国内6位(興収193億)の記録に迫る勢いだ(映画.com)。海外でも続々と公開が始まっており、ストーリー、映像の両面で高く評価されている。
◆海外での上映も多数。中国では異例の扱い
「君の名は。」は、田舎に住む女子高校生の三葉と、東京に住む男子高校生の瀧が入れ替わってしまうという設定で始まる。幾度も入れ替わるうちに、お互いが繋がっていたと気づいた瀧は、三葉に逢いに行くことを決心するが、その先には意外な真実が……という流れで、コメディタッチから驚きの結末に向かう展開となっている。
日経アジアンレビューによれば、アジアを始め、イギリス、アメリカなど89ヶ国で公開が決定しており、10月末から上映が始まった台湾では、1998年のホラー「リング」が持つ日本映画の興収記録を上回った。11月からはタイ、香港でも上映され1週目の興行成績は上々だったらしい。
中国では11月にプレミア上映が行なわれ、12月2日より全国7,000館で上映されるという。中国の配給会社の幹部は、「通常、日本映画は日本での公開から少なくとも半年たたないと中国では公開されないが、2ヶ月で上映にこぎつけたのは異例」と述べ、中国ファンの間に作品に対する強い期待があることの表れだと述べている(日経アジアンレビュー)。
◆ユニークなストーリー。自由度の高さに注目
海外で日本のアニメといえば、宮崎駿監督の「スタジオ・ジブリ」作品が圧倒的人気を誇るが、英メディアは「ポスト・ジブリ」としては初の大ヒット作だと、作品と新海誠監督を讃えている。
ガーディアン紙は、「君の名は。」は宮崎作品というよりも、村上春樹氏の小説に似ていると述べる。男女が入れ替わるというコメディから、予期せぬ方向へストーリーが展開していき、ネタバレするのでこの先は言えないが、とにかく理論物理学、古い言い伝え、破壊的自然災害、考証、時間との戦い、ロマンスとほぼすべてのジャンルが一つに織り込まれ、ユニークで感動的かつ壮大なものにブレンドされていると表現している。
英ヤフー・ムービーは、「君の名は。」のストーリーは、セクシャリティ、ロマンス、愛、喪失といった主要テーマを持っており、アニメのなかで最も主題に沿い、実験的で力強いと評価。家族向けのグローバル・ブランドであるディズニーアニメにはとても取り組めない領域に対応した、自由度の高い作品であることは明らかだとしている。
◆手書きにこだわらず、斬新な映像
映像に関しても素晴らしいと評価されており、エコノミスト誌は、新海監督は宮崎監督の模倣者ではなく、作品冒頭のカメラズーム、きびきびした編集、珍しいアングル、詳細に描かれた風景、ライティング効果の多様さなどから、オリジナリティの高さは明らかだと述べる。さらにこれまでの手書きのアニメーション技術とデジタルの融合が、作品に見どころを作り上げていると述べ、手書きを重んじた宮崎作品との違いも示唆している。
ガーディアン紙は、「君の名は。」のキャラクターは古典的な手書きに見えるが、その周りは、3D風景やタイムラプスまで使った、生き生きとした超現実の世界だと説明する。同紙によれば、新海監督は自分ではあまり絵を描かない。手書きのイメージをスキャンする場合もいまだにあるが、ほとんどのアニメーションはコンピューターで作られているという。監督はその理由を、「絵を描く人は、自分が職人だと思っており、ペンと紙に執着する。しかしそれはあまり生産的ではなく、実はコンピューターで始めたほうが早いし簡単だ」とインタビューで話しており、「君の名は。」の製作費も、ハリウッドアニメの10分の1ほどだと述べている。
◆ポスト宮崎。アカデミー賞にも近づいた?
ヤフー・ムービーによれば、現在のアニメ界は、ディズニーやピクサーなどが世界的に支配しており、その牙城を崩すことができる唯一の人物、宮崎監督が引退を表明したことは大きな損失だったと述べる(注:宮崎監督は現在短編アニメーションを製作中)。多くの海外メディアが、新海監督こそがその穴を埋める人物だと見ており、「新しい宮崎駿」と呼んでいるのもうなずける。
「君の名は。」は、第89回アカデミー賞長編アニメ部門の審査対象作になっており、ノミネートの期待もかかる。次の宮崎と呼ばれるのはさぞかしプレッシャーだろうが、新海作品が世界から注目されていることは間違いない。