“日本語できない”米女優、なぜ朝ドラヒロインに? “主人公と同じ勇気”に海外注目

 9月29日から新たに始まるNHK朝の連続テレビ小説『マッサン』に、メインキャストとして初めて外国人が抜擢されたことで海外メディアからも注目が集まっている。

 『マッサン』は、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝が留学先のスコットランドで出会った女性リタと結婚し、共に日本で初となるウィスキーを作るという実話をベースにした物語だ。リタをモデルとする亀山エリー役は、アメリカ出身の女優シャーロット・ケイト・フォックスが演じる。

【ヒロインと重なる境遇】
 500人の候補者の中から大役を射止めたシャーロット・ケイト・フォックスについて、アメリカの俳優情報サイトbackstage.comは「言葉の全く通じない地球の反対側へ渡った主人公の姿と重なる勇気の持ち主」と伝えている。

 ただでさえ慣れない日本での撮影、ましてや朝ドラは毎日放送がある分、演者のスケジュールも過密だ。当初は夫役の玉山鉄二をはじめとする他の役者やスタッフとの交流にも十分な時間がとれず戸惑ったという。

 それでも今は、うまく周囲とのコミュニケーションを取るコツがつかめてきたそうだ。「日本語がわからない分、もっとオープンに、感度を高く保つ必要があると感じたわ。でもそれって結局は、すべての俳優が目指すべきところなのよね」と語っている。どうやら特殊な環境での試練が、役者としての質を高めることにも繋がったらしい。

【朝ドラの新境地】
 米クリスチャン・サイエンス・モニター紙(CSM)は、『マッサン』を「異なる文化を背景に持つ者同士の結婚とはどういうものかにスポットを当てた作品」と評している。

 これまでNHKの朝ドラと言えば、かわいい若い女性が年を取るまでの「女の一生」を描くのが典型だった。それが今回、初めて外国人をメインキャストに抜擢することで「国際結婚」という新たなテーマを開拓した、と日本のメディアとカルチャーに造詣が深いコメンテーターのフィリップ・ブレイザー氏は語っている。

 同紙によると、毎回番組の最後には、現在の国際結婚の夫婦の写真が紹介されるとのことだ。もはやは珍しくなくなったとはいえ、それでもまだ国際結婚夫婦はやはり目立つとブレイザー氏は言う。ましてやエリーのモデルとなったリタが日本に来たころは、外国人は極めて珍しく、国際結婚も抵抗が強かった。ドラマでは、慣れない異国の文化と格闘するエリーの姿が描かれるという。そこには、箸や正座などお馴染みのものから、女性だから醸造所には入れないといった封建的な壁まであるようだ。

【スコットランドに注目】
 またリタの故郷であるスコットランドの地元紙は、このドラマによって日本でのスコットランドへの注目が高まるだろう、と報じている。

 ヒロインのモデルとなったリタ・カウンは、1896年スコットランド南西部のグラスゴーで生まれた。夫となる竹鶴政孝とは、政孝がグラスゴー大学で学んでいたときに出会った。ヘラルド・スコットランド紙によると、当時政孝がいかに孤独な環境に置かれていたかがグラスゴー大学による後の調査で明らかになっているという。当時学内に日本人は政孝ひとり、さらには留学生が地元の人間と結婚するのは、まず滅多にないことだったという。

 同紙によると、俳優による現地ロケこそないものの、ドラマ本編では随所に美しい現地の風景映像が差し込まれる予定だという。最近は独立問題で世界を騒がせたスコットランドだが、少なくとも日本ではこのドラマによってそれ以外にも注目する点ができ、いっそうスコットランドへの関心が高まることとなるだろう、と同紙は期待を寄せている。

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Text by NewSphere 編集部