『風立ちぬ』にフランス辛口評価 「2時間の燃え上がるメロドラマ」にトトロファン驚愕
1月22日から、フランスでも映画『風立ちぬ』の公開が始まった。ジブリ作品はフランスでも人気があり、しばしばテレビで過去の作品が放映されている。宮崎駿監督の引退作となった同作は、フランスでどのように受け止められたのか。
◆大きなパラドクスを抱えた作品
フランス公共ラジオは同作を、美しく、思わず息を飲むような感覚の作品に組み立てていると評した。主人公を取り巻く小さな思い出と戦争という大きな歴史、家族の出来事と時代の物語、鮮やかで突飛な夢のシーンと戦争の悲しい現実、これらの照応関係が完璧と高く評価している。
仏パリジャン紙は、映画の前半は地震、恐慌、戦争といった大きな痛みを、過度な詩的イメージを使い、血を描くことなく触れていると紹介した。同作は、夢のような技術進歩は軍事競争を生じさせると語り、戦闘機は好きだが戦争は嫌うという、宮崎監督にとっての大きなパラドックスとなっていると解説した。
◆宮崎映画で『風立ちぬ』は8番人気
仏映画情報サイト・アロシネは、各メディアが付けた5つ星の評価を平均し、どの宮崎作品がもっとも人気があるかをランク付けした。『風立ちぬ』は4.2の8位だった。なお1位~10位は以下の通り。
1位『天空の城ラピュタ』(4.9)
2位『千と千尋の神隠し』
3位『もののけ姫』
4位『魔女の宅急便』
5位『風の谷のナウシカ』
6位『となりのトトロ』
7位『崖の上のポニョ』
8位『風立ちぬ』
9位『ハウルの動く城』
10位『太陽の王子 ホルスの大冒険』
『風立ちぬ』が8位になった理由はどこにあるのか。評価を3つ星(ル・モンド紙、20ミニュット紙、メディアポータルサイト・アボワール・アリール)、2つ星(メトロ紙)にしたメディアの批評を読み解くと、フランス人が宮崎作品に何を求めていたのかが浮かび上がる。
◆『風立ちぬ』は長過ぎる
アボワール・アリールは、宮崎監督は最後の作品として挑戦、成熟、そして確実な死の近くで飛び行く恋人たちを選んだが、しかし長い(!)と評した。メトロ紙も、宮崎監督は場面を引き伸ばす性向があり、いくらかの観客の集中は緩慢になる。また陰気で謎めいた主人公に、少しも感情移入できないと伝えた。20ミニュット紙は、2時間の燃え上がるメロドラマはトトロのファンを驚かせたと評している。印象的な地震のシーンや、創作と悲しみに基づく作品内の哲学的熟考は、子どものファンを失う恐れがあると述べた。
アロシネの一般読者(一般読者の『風立ちぬ』に対する平均値は4.0)の感想も、「長い」というものが多い。ある読者は「宮崎監督は感情の言葉を持っており、何が人生の楽しみで何が悲しみなのか、観客にその伝え方を知っている」と評価しつつも、今作はそれとは異なるとコメントした。画は反論できないほど優れた描写だが、作品中で多くのことを言おうとし過ぎたと感じたという。
『風立ちぬ』は、史実を元にしているという点で、今までの主な宮崎作品とは一線を画す。ファンタジー要素も他作品のように出ず、物語も淡々と進む場面が多い。ゆえに長いと感じるフランス人は多かったのだろう。よって評価は総じて高くとも、賛否は分かれる結果になった。