「TPPの死」でも中国主導RCEPは前途多難? 「閉鎖的な国々」のそろわぬ足並み

 次期米大統領のドナルド・トランプ氏は、TPPからの撤退を公言しているが、ついに同氏のアドバイザーが、「TPPは死んでいる」とメディアに語った。TPP参加国の反応はさまざまで、各国とも生き残り策を模索中だ。TPPが消滅すれば中国主導の協定が発効すると危惧する声もあるが、そちらもうまくいかないという意見もある。

◆TPPの死で、中国の影響力拡大か?
 ロイターによれば、12日に匿名を条件に取材に応じたトランプ氏の政策顧問が、「TPPは死んでいる」ときっぱりと述べ、トランプ政権は多国間貿易協定を結ぶつもりはなく、今後は二国間貿易協定が驚くほどのスピードで締結されるだろうと語った。また、アメリカの製造業を「空洞化させた」長年に渡る中国の貿易慣行をひっくり返すため、中国を為替操作国に認定し、中国製品に高関税をかけることも辞さない、と強硬な姿勢を示したという。

 ブルームバーグに寄稿した、米超党派組織、外交問題評議会のジョシュア・クランジック氏は、アメリカがそのような措置を取ることは、中国を利する可能性があると述べる。「アメリカなしでもTPPを」という声もあるが、以前安倍首相が、「アメリカ抜きでのTPPは意味がない」と述べたように、実現は難しいと同氏は見ている。トランプ氏の当選以来、TPP参加国の中でも中国が主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に進路変更する国も出ており、そうなれば地域の貿易ルール設定に中国の影響が強くなることは避けられない、と同氏は懸念を示す。さらに、中国が自国の国営企業を守るためにRCEPを利用する恐れがあること、またRCEPの下では環境基準、労働基準が弱く、知的財産保護についても不十分であることなども問題視している。

 同氏によれば、アジアの政府関係者は実はTPPのほうを望んでいるが、アジアにおける貿易の機運をたとえわずかでも維持できるなら、どんな合意でも支持するというのが本音だという。彼らは将来的にはAPEC域内でのアジア太平洋自由貿易圏も構想に入れていると同氏は指摘し、ここでもアメリカが除外されてしまうのを懸念している。

◆主張の激しい参加国。中国主導RCEPも前途多難
 一方、米CNBCは、RCEPはまとまらないと断じる。RCEPは、ASEAN諸国と中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの16ヶ国の二国間協定を組み合わせることを目的としており、TPPのように労働基準、環境保護、反腐敗などの多くの条項をカバーしておらず、よりまとまりやすいと見られている。しかし、参加国の優先事項が対照的なのが、最大の障害になるということだ。

 もっともやっかいな例として上げられているのがインドだ。途上国向けジェネリック医薬品を大量に製造するインドは、いくつかの国で安価なジェネリック医薬品へのアクセスを規制する可能性がある、日本と韓国が提案した知的財産権に関する方針に猛反発した。その一方で、自国のマーケット解放には強硬に抵抗しているという。CNBCは、米コンサルティング会社の幹部の「RCEPの参加国は多いが、より閉鎖的な国が多い」という言葉を引用し、インドだけが問題ではないとしている。

◆トランプ政権発足後の心変わりはあるか?
 14日にオーストラリアを訪問した安倍首相は、ターンブル豪首相とともに、両国が引き続きTPP発効に向けての取り組みを続けることを表明している。日豪ともにトランプ政権を支えるとも述べており、次期大統領の心変わりに最後の望みを託しているようだ。

 豪通信社AAPによれば、オーストラリアのチオボー貿易・投資相は、次期米国務長官となるレックス・ティラーソン氏が、TPPに反対しないと発言したことを受け、TPPが死んだというのはまだ早いと主張。アメリカ国内でも意見はいろいろあり、トランプ氏の政権移行チームにとっては、TPPが最重要課題ではないため、今後議論の余地はあると述べている。同相は近く訪米し米要人と会談の予定で、この問題がどう展開するのかさらなる見識を得たいとした。「まずトランプ氏に就任式に出てもらい、大統領になってもらう。それから、政権の成り行きを見守る」とも述べており、時間をかけるのが最良の策だと語っている。

Text by 山川 真智子