日本の為替介入に警戒する海外“その前にやるべきことを…” TPPへの悪影響を懸念する声も
今年1~3月期の日本のGDP(速報値)が年率1.7%となり、予想を大きく上回った。とはいえ安倍政権が描いた景気回復の道は遠く、アベノミクスも限界かという見方も増えている。海外メディアは円高に振れる今、日本政府が適切な金融政策を取らず、為替介入を実施するのではと警戒を強めている。
◆数字は良いが、実態はまだまだ
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、GDPが1.7%となったことで、定義上の不景気逆戻りは避けられたと述べ、予想以上のペースでの成長は、思ったより勢いがあった国内需要も手伝い、日本経済が中国経済の減速と円高の影響をなんとか乗り切ったことを示すとした。しかしアナリストの中には、好調は今期だけという見方もあり、野村証券金融経済研究所のチーフ・ エコノミスト、美和卓氏は、「中国や他の国々の回復が遅れていることから、日本は4~6期はゼロ、またはマイナス成長に戻りそうだ」と述べている(FT)。
ロイターは、お金のない人の食べ物とされるカップ麺の売り上げが安倍政権発足以来伸び続けているとし、昨年と比べ、1~3月のカップ麺の1ヶ月あたりの平均消費額が26.1%増となったと報じている。消費者は光熱費、娯楽費、交通費等を節約しているというデータもあり、経済の60%を占める個人消費のこのようなつつましさが、政府がもう1年、期待外れの成長と低いインフレと戦わなければならないというシグナルだと述べている。
◆日本は為替介入で通貨安戦争を始めるのか?
日本経済にとって心配なのは、アベノミクスの行方であり、特に最近の円高傾向だ。そもそも弱い円は、インフレを起こし異次元の金融緩和で経済を再生するための、アベノミクスと日銀にとっての鍵となる要素であった。緩和の間接的結果として円は急落したが、今年第一四半期はリバウンドを見せ、企業の利益やインフレ期待に打撃を与えている(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。
日本は成長を押し上げるため通貨切り下げ競争を当てにしている、という批判に安倍首相は反論したいところだが、閣僚からは為替介入の可能性を示す発言も出ており、浅川正嗣財務官は、政府は介入を「正当な道具の一つ」だと見ていると述べている(FT)。
当然、海外はこのところの円高をひっくり返すための日本の介入を懸念している。FTは、介入という「道具」の利用は、他の道具ではうまくいかないという残念な場合にのみ使われるべきだとし、日銀は金融政策を緩和し続けているが、それは発作的な動きだったと批判する。さらに、黒田日銀総裁は市場を気にするよりも、圧倒的な破壊力で景気停滞とデフレの脅威に対処すべきと述べる。また、安倍首相の消費増税をめぐるあいまいな発言には、景気てこ入れのために公金を使うことへの、はっきりとした姿勢は見受けられないとする。
今は、財政と国内の金融政策を捨てて古い通貨介入というゲームに戻るときではないとFTは述べ、日本はG7サミットで、兵器庫にあるすべての武器を用いる覚悟だと示す必要があるとしている。
◆アメリカは介入を許さない
内閣官房参与でイエール大学名誉教授の浜田宏一氏は、為替介入はアメリカの強烈な反発を招くと述べ、「外交関係を考慮しない介入は、賢明ではない」とWSJに語っている。浜田氏は、アベノミクスに対するアメリカの態度が変化しつつあることを感じており、当初アメリカは回復しようとする日本の助けになろうとして、円安に堪えたのだろうが、「経済の見通しが日米双方において不確実な」今は、同様の気持ちを持ち合わせていないのではないかと見ている。同氏はまた、アメリカ側の関係者が、日本が為替介入すれば、TPPに反対する議員に恰好の機会を与えてしまうと懸念していると説明した。
すでにアメリカは日本に介入しないよう警告を与えており、日本を通貨政策監視リストに入れているが、浜田氏は、「行き過ぎた」円高で日本経済が混乱に陥り、より強力な金融政策も効果なしとなれば、介入は選択肢としてありえるとも述べている(WSJ)。