世銀「通貨切り下げの輸出促進効果は半減」 アベノミクスは大丈夫か?韓国紙も懸念
米連邦準備理事会(FRB)の利上げ予測から投資マネーが収縮しつつあるなか、人民元切り下げに発する中国経済への不安は、世界的な株価の下落、コモディティ・通貨安をも招いている。日本も円安誘導で競争力を高めているが、世界銀行は最新研究で、通貨切り下げによる輸出促進効果はこの20年で半減していると警告している。アベノミクスは混迷を乗り切ることができるのか?
◆新興国を襲う通貨安
この間の中国発の経済不安で動揺しているのは株式市場にとどまらない。中国製造業への原料供給国である新興国は、深刻な影響を受けており、なかでもロシアの株価・通貨は記録的な下げ幅となった。対露制裁で原油輸出先を中国に振り向けたロシアは、原油価格下落からルーブル安となり、8月24日には1ドル=70.9ルーブルと、昨年の36ルーブルから半値近く下げ、過去最安値となった。ルーブル安はインフレ率を15%以上に押し上げ、4~6月期のGDPは前年同期比4.6%減少した。同様に貴金属や鉄鉱石、石炭、ゴムなど工業原料を供給してきた南アフリカ、ブラジル、インド、ASEAN、中南米の貿易相手国も軒並み通貨を下げ、鉱工業や貿易関連の企業活動の停滞から雇用不安にまで影響を広げている(ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)8月25日)。逆に円やユーロは上昇しており、ユーロ圏に属さないイギリスの通貨ポンドは下落している(ロイター8月24日)。
◆自国通貨切り下げ効果は疑問
中国の人民元切り下げは、当局によれば「人民元の基準値を市場の実勢レートに合わせる措置」であるというが、ドルや日本円に対して安くなれば輸出競争力が増すので、輸出支援のためというのが本音と見られている。人民元は8月初旬にIMFのSDR(特別引出権)構成通貨に採用されなかったが、その決定にタイミングを合わせて切り下げを行うことで、批判をかわす狙いがあったとも言われている(WSJ8月2日)。こうした中国政府の建前と本音の乖離、秘密主義が、市場の疑念を呼んでいるとの指摘もなされている(同8月25日)。
それに関して、世界銀行は、現在の人民元切り下げを典型とする自国通貨切り下げの輸出促進効果は、この20年間に半減しているという最新研究を発表した。この研究によると、通貨切り下げの輸出促進効果は、サプライチェーンのグローバル化の進展によって、以前よりずっと小さくなっているという。例えば中国製のスマホの部品は、日本・韓国・東南アジア・ヨーロッパ・アメリカから輸入されているが、人民元切り下げは完成品の国際価格引き下げの反面、輸入コストを引き上げるので、効果は相殺されるというのだ。輸出促進には何よりも世界の需要が増えることが必要と結論付けている。同様の指摘はフィナンシャルタイムズ(8月19日)でもなされ、ブルームバーグは、「アジア諸国は、通貨切り下げが万能薬ではないことを理解すべき」と苦言を呈している(8月24日)。
◆アベノミクスは大丈夫か?
上述の世界銀行の研究の警告は中国にだけではなく、円安誘導による輸出競争力強化を柱とするアベノミクスに対しても向けられている。AFPは、今年第2四半期、日経平均株価指数が0.6%上昇した半面、GDPは0.4%縮小したことを指摘。中国の減速による貿易の躓き、個人消費の低迷、原油安によるインフレ目標達成の足踏みなどを理由として挙げつつ、「中国に同調して各国が輸出後押しのために通貨切り下げを行うなら、通貨戦争に火を点ける」と懸念を表している(8月17日)。イギリスの投資コンサルタントも、債務超過を抱えた日本の量的緩和による円安誘導策は、金融資産インフレを招きつつあると警告する(マーケットオラクル8月24日)。
韓国でもアベノミクスに言及がされている。韓国経済新聞(8月26日)は「アベノミクスはゾンビ企業ばかり量産してきた」と指摘。昨年、日本の上場企業は1社も破産しておらず、中小企業の廃業率もアベノミクス以前は5%を超えていたものが、2~3%に留まっているという。また産業用ロボットを活用する企業は韓国よりも少なく、規制改革や労働改革も行われていない、と批判した。
国内でも野党はアベノミクス批判を前面に掲げ始めた。アベノミクス批判が加熱すれば、政権基盤も危うくなる。安倍政権は今後どんな手を打つのか。