“正社員を解雇しやすくすべき” 停滞脱出の鍵は雇用改革と英識者
新年を迎え、著名エコノミストらによる世界経済の予測記事が海外メディアを賑わせている。日本経済について言及しているものも多いが、極端な円安政策や少子高齢化を理由に悲観的な展望を示す見方が目立っている。
◆日銀の追加金融緩和は「ハロウィンの悪夢」
ビジネスニュースサイト『ビジネス・インサイダー』は、米エコノミスト、ジョン・モールディン氏による「世界経済の5年予想」を掲載している。同氏はアベノミクスや日銀の政策に批判的な論客として知られ、この記事でも、日本経済についての悲観的な予測を筆頭に挙げている。
同氏は、今後の5年で、「7つの大きな変化を及ぼすTSUNAMI」が世界を襲うとしている。その第一波が、極端な円安政策を取る日本が仕掛けている「通貨戦争」だという。昨秋の日銀の追加金融緩和を最悪な展開をもたらしたハロウィンの悪夢とし、これによって今後5年間円安水準が保たれる可能性は90%に達したと予測。円安はドイツ、中国、韓国などライバルの貿易立国に「効果的にデフレを輸出する」と、批判的に見ている。
その円安のレベルについては、「私は以前、1ドル200円まで下がると言った」とし、他のエコノミストたちは140円だとも300円だとも言っていると記す。ただし、今の円安は、日本政府・日銀が行っている「世界の主要国が歴史上行ったことのない壮大な実験」の結果であり、誰にも予測不能だとしている。そして、同氏は次のように付け加えている。「正直なところ、日本の消費者にもう逃げ道はないと思う。もし私が日本人なら、金と円建てではない資産を買い、現金はドルなどの外貨に替えるだろう」
◆労働改革が日本浮上の鍵
元エコノミスト誌のエディター、ビル・エモット氏は、当面の日本の情勢が、世界のエコノミストたちが懸念する世界経済の「長期停滞(Secular Stagnation)」の真偽をはかる指標になるとするコラムを、英フィナンシャル・タイムズ紙に寄せている。「長期停滞」とは、「世界経済全体が長期的な停滞に陥っているかもしれない」という見方で、昨年2月に元米財務長官のローレンス・サマーズ氏が提起した。
エモット氏は、「日本は“長期停滞”の世界チャンピオンだ」と記す。「その要因は、「もはや抜け出せない感のある賃金の低迷というトレンドだ」と言う。非正規雇用の拡大により、第一に結果として正規雇用の労働市場が固定化されてしまったこと、第二に労働者がスキルアップする機会が失われたことを指摘。それが、賃金、ひいては経済全体の停滞にも結びついていると同氏は主張する。
そして、アベノミクスが目指す労働改革が、日本が停滞から脱出できるかどうかの鍵になると見る。同氏は「レイバーノミクス(Labournomics)」という造語でそれを表現し、「正規」「非正規」の二重構造の労働システムを一つの労働法のもとに整理することが必要とされていると主張する。それによって正社員を解雇するコストがリーズナブルなレベルまで下がれば、結果的に、経営側には市場のニーズに対応する柔軟性を、労働者側には正規・非正規を問わず対等な権利を与えることができるとしている。
◆少子高齢化は日本を筆頭に世界的傾向
エコノミスト誌も、「長期停滞」をキーワードに据えた世界経済の長期展望記事を掲載している。同記事は、主要先進国(米、英、日、独、仏、伊)のGDPの成長率は、将来予測を含め4%(名目値)、2%(実質値)以内にスピードダウンしているという統計を紹介。その最大の要因は日本をはじめとする先進国の少子高齢化だとしている。
記事は併せて、OECDによる上記6ヶ国の高齢者支援率(65歳以上に対する20-64歳の労働者数)を紹介している。それによると、日本は1950年には6ヶ国中最も“手厚い”9.98(最少のフランスは5.13)だったのが2010年には最少の2.57に(最多のアメリカは4.59)、2050年の予測値も最少の1.27となっている。
これらの数字は、人口減・少子高齢化は日本だけではなく、先進国では世界的な傾向だということを示す。同誌は、「EUは今後40年間で4000万人の労働人口を失う。移民なしでは、その数字は9600万人となる」としている。