日銀、我慢の限界? 黒田総裁、政府に改革を注文 “重要な変化”と海外メディア注目
黒田日銀総裁は22日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューで、政府の経済構造改革について語った。「実施がカギだと思う。迅速かつ即座に実施する必要がある」「重要なのは政府や民間セクターが行うことだ」などと、改革ペースに不満を示した。
さらに26日、岩田副総裁も、政府が構造改革を進めないと経済成長は低迷したままになる、と警告した。
【頼りないパートナー】
ブルームバーグは、日銀の異次元緩和政策のインパクトが薄れる中、「投資家は低い法人税、労働市場の柔軟性、米国主導の貿易協定での進展を求めている」と解説した。しかるに日本の実効法人税は36%で、G7中2番目に高く、少子高齢化によって労働市場は柔軟性を欠いている。
日銀は2%のインフレ目標を追っているが、それに対し日本の潜在成長率は0.5%しかないと推定している。従って、物価増に賃金増が追い付かない国民から、インフレ政策に対し不満が出るとの危機感があるとのことだ。専門家は、「岩田は基本的に、日銀は成果を上げているのだから今度は政府がデフレを終わらせる姿勢を示す番だと言っているのです」と述べている。
岩田副総裁は「日銀の現在の政策はデフレだけでなく、インフレが2%を大きく超えるのを防ぐ意図でもあります」「景気が過熱してインフレが恒常的に2%を超えるなら、我々は政策を調整します」とも発言したと、ロイターは報じている。インフレ政策への懸念を和らげようとする発言と言えそうだ。
【いろいろ異次元な黒田総裁】
ウォール紙は黒田総裁の発言について、黒田総裁が安倍首相の肝煎りで就任してから1年余り、政府に向けここまでの発言をすることは重要な変化だと報じている。
黒田総裁は、金融政策にとどまらず構造改革をすぐに強化しないと「実質成長率は期待はずれになるかもしれません」「それは社会のためにならず、経済のためになりません」などと発言するに至った。物価目標を達するだけでは日本のGDP成長率はアメリカよりもはるかに遅い、最も苦境にある欧州諸国と同程度の水準止まりだというのだ。
一方、安倍首相は同紙とのインタビューで、政権は電力自由化や減反など、既得権に守られた部門の改革に向けすでに大きく踏み出しており、6月には新たな提案を出す、と進展をアピールしている。
さらに黒田総裁は、このところ円が上昇傾向にあることについて、円高が回復の足かせになる恐れがあるとの懸念を示しつつ、投資家は円がさらに上昇すると予想すべきではないと述べた。同紙は、日銀総裁が為替レートを公然と議論することは異例だと指摘している。
また、同紙は黒田総裁の人物像にもかなり紙幅を割いている。それによるとルーズベルト大統領を手本としているかのように前向きで、「講演で満面の笑みを絶やさない」「芝居気たっぷり」「記者の質問に反り返って大笑いすることも多い」。めったに笑みを見せない学者肌の白川前総裁とは極めて対照的との評だ。黒田総裁は就任時の挨拶ですでに、「日本銀行はその使命を果たしてこなかった」と言ってのけている。
また、反証主義を唱えた20世紀の哲学者カール・ポパーに高校時代から傾倒しているとも紹介されている。これもまた前例に囚われるより、理論的な強固さを重視しているという意図での記述かもしれない。
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