TPP交渉難航 豪EPA通じた日本の駆け引き、米に通じずと海外紙分析
8日に来日した米通商代表部(USTR)のフロマン代表は、甘利明経済財政・再生相と、環太平洋経済連携協定(TPP)について会談した。
24日にはオバマ大統領の来日を控えており、布石となる前進が目指されていたが、着地点が見当たらないまま、10日に会談は終了した。フロマン代表は「2日にわたる協議で、いくらかの点での進展はあったが、互いの立場にはまだ大きな相違がある」と語っている。
【EPA合意による促進が期待されたが】
日本は今週、オーストラリアとのEPA(経済連携協定)交渉において、牛肉の関税削減に合意している。重要5品目のひとつである牛肉の関税削減に応じた日本政府の思惑は、TPPでさらなる低関税を受け入れるため、国内のハードルを下げる安倍首相の策、と見る(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。もしそうであるならばアメリカに取っては良い兆候、と伝えている。
その一方、日本の真意はもっと皮肉なもの、との見方もあることを同紙は指摘する。日本政府はこの合意を「アメリカが無茶な要求を強いることなく、分別あるオーストラリアのように妥当な線で譲歩する姿勢を見せれば、日本はきちんと交渉に応じる」ことの証拠として利用するつもりでは、というのが本音かもしれない、とも伝えている。
オーストラリアとのEPA合意が、アメリカとのTPP交渉加速のきっかけとなることを日本政府は期待していたようだ。ただしフロマン代表は来日時、「我々はより高いレベルでの合意を求めている」と発言しており、日豪の合意は日米交渉に影響しないと語っていた、とブルームバーグは報じている。
【海外紙の警告と安倍首相のジレンマ】
フィナンシャル・タイムズ紙は、TPPが締結に至らなければ、経済再生を公約する安倍首相にとって痛手となるだろうと指摘する。
OECDによると、平均して収入の半分に相当する助成金と農産物の価格調整により、日本の農家は世界で最も保護されているという。そして、まさにこの点こそが、日本との交渉を難しくしているのであり、いわゆる5つの聖域(米・麦・乳製品・甘味資源作物・牛豚肉)を死守しようとする日本政府の根底となっている、と同紙は述べている。
しかし、貿易はアベノミクス「第三の矢」である成長戦略の肝、と同紙は言う。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、ここで貿易に対し積極的な姿勢を示さなければ、安倍首相の改革姿勢そのものが疑われることとなるだろう、との見解を示している。
【アメリカ国内の反対】
米政府がここまで強く要求するからには、アメリカ世論はTPPに賛成なのかと思われるが、実はそうではない。米政府には、たとえ日本との交渉が成功したとしても、議会という次の大きな壁が立ちはだかる、とフィナンシャル・タイムズ紙は指摘する。
同紙によると、オバマ大統領自身の民主党支持基盤にこそ反対派は根強いという。例えば労働団体は、低コスト地域への労働需要流出により、米国内の雇用が損なわれることを懸念している。さらにそういった地域では環境に対する規制基準値が低いことから、環境保全団体は汚染の悪化を警告している、と同紙は伝えている。
またブルームバーグによると、日本のTPP参加は、アメリカの自動車メーカーの猛反発を引き起こしたという。
そのため、TPP早期採決のカギと見られていた貿易促進権限(TPA:迅速な審議のために、議会は通商合意の個別内容の修正を求めず一括承認か不承認のどちらかを採決するという案)も、少なくとも11月の中間選挙までは取り上げられることはないだろう、というのが大方の見解である(フィナンシャル・タイムズ紙)。ただし米政府は、TPAがTPP締結の絶対必用条件ではない、と主張し続けている。
【全崩壊の危機も】
さらに日米間のみならず、他の参加各国間でも合意できない点が相次いでいることから、TPP自体が崩壊する危機もある、とブルームバーグは指摘している。同誌によると、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムが、期限であった昨年末までの合意に至らなかったという。
なおTPPは、農産物や工業製品等の伝統的な品目のみならず、金融商品や知的財産、政府調達にまで及ぶ「21世紀の協定」と位置づけられている。
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