麻生氏“ナチス発言”、日本各紙の批判に温度差

 麻生副総理兼財務相が29日、国家基本問題研究所主催のイベントで、「ドイツのワイマール憲法はだれも気づかないうちにナチス憲法に変わっていた。あの手口に学んだらどうか」などと語った。

 麻生氏は1日、「真意と異なり、誤解を招いたことは遺憾だ」と述べ、発言を撤回した。改憲については落ち着いて議論すべきであり、ナチスとワイマール憲法は否定的な意味で例示したと説明した。

 この講演会については、30日時点で主要各紙が報じていたが、読売新聞と共同通信が“ナチス発言”を取り上げたものの、朝日・産経両紙は「ナチス」部分について触れていなかった。

 しかし、その後は海外メディアの批判的な報道の影響もあってか、各紙は改めてこの問題を追及。2,3日には相次いで社説で取り上げた。

【言葉の選択と、間違った歴史事実認識への批判】
 各紙が共通して批判するのは、言葉の選択と歴史認識についての2点だ。

 まず各紙は、ナチスの手口に「学んだらどうか」という、ナチスを肯定的にとらえていると思われかねない言葉の選択について批判している。朝日新聞は、欧米ではナチスを肯定するような発言は、閣僚の進退問題につながると指摘。麻生氏の発言が、先の戦争に対する日本人の姿勢について、世界に大きな誤解を与えた点を糾弾している。

 次に、そもそも歴史事実を間違って認識している点についても各紙は指摘している。麻生氏のいう「ナチス憲法」なるものはない。ヒトラーは首相就任後、国会同意なしに法律をつくる権限を政府に認める「全権委任法」を制定したことで、ワイマール憲法を実質的に停止した。加えてその過程では、共産党の弾圧などを行なっており、麻生氏が言う「誰も気づかないで」変わったという表現も不適切だ。

【朝日・読売は安倍政権への影響に言及】
 朝日新聞は、麻生氏が明確に謝罪せず、発言の核心部分の説明は避けたままであることを問題視。麻生氏だけでなく、自民党が、歴史や立憲主義への正しい認識なく改憲に向けて動いていることを危惧している。最終的には、「安倍首相の認識が問われる問題」だとして、政府の対応を求める姿勢だ。
 
 また読売新聞も、麻生氏の失言は、参院選の大勝で「政権のタガが緩んできた」ためでは、と批判的だ。

【産経は改憲論議への影響を危惧】
 一方産経新聞は、この問題で、「憲法改正論議そのものが水をさされる事態を避けなければならない」と主張する。憲法改正は「国民の多数が望んでいる」として、正々堂々、議論を進めればよいという姿勢を示している。

 総じて、各紙の現政権と憲法に対する姿勢が明らかになった社説だったといえる。

Text by NewSphere 編集部