安倍首相の外交・安全保障政策 各紙の注目ポイントとは
海外紙は、安倍政権の経済政策とともに、外交・安全保障政策についても注目している。一時期、一部メディアでは、「タカ派」の安倍首相のもとで日本が「右傾化」することを懸念するような論調もあった。ただ実際には安倍政権は、韓国への特使派遣や、尖閣諸島について目立った言動はとらないなど現実的な対応を行なっており、こうした報道も少なくなってきた。
日本の各紙も、それぞれの視点から新政権の外交・安全保障に着目している。
朝日新聞は、安倍首相の初外遊がベトナム、タイ、インドネシアであることを取り上げた。麻生財務相、岸田外相もASEAN諸国を訪れており、安倍政権の東南アジア重視姿勢が表れているとみている。米国やインドと同様、そのねらいは自国の経済成長につなげることと、中国の牽制にあると分析。実際、安倍首相も「安全保障面の協力強化」を訪問目的の一つに掲げている。
ただ、「緊張解くアジア外交を」という題名にある通り、同紙はこの方針に疑問を呈している。日米で「中国包囲網」を構築しようとしている、と受け止められるような行動で、中国との距離感に違いがあるASEAN各国間の対立を助長してはならないというのだ。「価値観外交」として敵味方を色分けるのではなく、各国の立場に配慮した丁寧な外交を求めている。具体的には、地域全体の底上げを図る経済支援、国際法に基づく領有権問題の解決という姿勢の共有を挙げた。77年の「福田ドクトリン」のように、心と心のふれあいを大切にし、アジアの平和と反映に貢献する外交姿勢を望むと締めくくった。
産経新聞も安倍首相の外遊を取り上げたが、朝日新聞とは対照的な論調だ。この訪問が新政権の「東南アジア重視」姿勢を表し、経済・エネルギー・安全保障面で協力を深めるとともに、中国への牽制をねらっているという見方は共通している。ただし、中国「包囲網」の構築は有効だと主張し、フィリピンと海洋安全保障面の連携強化で一致したことを取り上げるなど、中国への脅威と対抗の必要性をより強調する姿勢だ。 別の社説では、中国の尖閣への挑発行動に対し、言葉だけでない具体的な行動として、(現行の自衛隊法では曖昧な)領空侵犯機への警告射撃の明確化、専守防衛の見直しなどを主張。危機意識をあらわにしている。
また、ASEANとの交流40周年を迎える日本の交流・経済支援実績を評価しつつも、歴代首相のASEAN諸国訪問は少なく、各国との2国間関係を深めるのは容易ではないという厳しい見方も提示している。
一方読売新聞は、東南アジア外交についてではなく、安倍政権の「防衛計画の大綱」と中期防衛力整備計画(2011~2015年度)を見直しについて取り上げた。産経新聞同様、中国の尖閣周辺での領海・領空侵犯、軍備増強、北朝鮮の核開発・ミサイル発射など、日本の安全保障は厳しい状況であると分析。領土守備体制強化のためにも、防衛費削減の見直し、グローバルホークやオスプレイといった新型機の導入、米軍との連携強化、日本版NSC(国家安全保障会議)の創設などを提案した。ただし厳しい財政事情を踏まえ、優先順位付けは必要とも述べている。そのためにも、民主党成犬時からの「動的防衛力構想」まで見直すことには批判的だ。単純な物量ではなく、多様で柔軟な対処力を抑止力とするこの構想は、米国からの評価も高いと述べ、安易な改変を避けるよう求める姿勢だ。