原発再稼働は誰の責任か-各紙は政府の無責任を糾弾-
原子力発電所の再稼働を誰が判断するのかが問題となっている。先月新たに発足した原子力規制委員会は、「再稼働判断や地元の合意形成は電力会社と経済産業省が担当すべき」との見解を発表した。一方政府は、「規制委が安全度判断したものは再稼働する。事業者が地元理解を得るべきだ」と異なる見解を持っている。この違いは、規制委に対する認識の相違から生まれている。規制委は政府から独立して安全規制を担うというのが設立趣旨のため、これまでの規制機関とは異なり、再稼働の可否判断は担わないというのが規制委の考えだ。一方政府は、「独立性の高い規制委が安全だと決めたものをまた国で判断するのは論理矛盾。安全が担保されたら再稼働する」(前原大臣)としている。なお、原発再稼働に必要な安全基準は、規制委が2013年7月までにつくるとされている。
各紙は、原発賛成・反対それぞれの立場から、責任を取らない政府の姿勢を批判した。
朝日新聞は、再稼働判断は政治の仕事であり、規制委に丸投げするのはおかしいと糾弾した。規制委の安全判断は必要条件だが十分条件ではない、という委員の意見を挙げ、再稼働の新たな基準を明確にすべきと主張している。
電力融通の限界、電気料金への影響、地元自治体の財政や雇用問題などの論点を整理せよという主張は正論だ。ただし、「原発稼働がなくとも電力需給に問題のない」という現状認識にたち、「内閣が掲げた原発ゼロ目標への責任を果たすべき」との提言には違和感がある。まず、原発がほとんど稼働できていない現状で、火力発電用の燃料輸入が大幅に増大していることなど、既に生じているデメリットを無視する議論は不正確だ。そして閣議決定されなかった「原発ゼロ目標」への責任を持ち出すのも説得力に欠ける。再稼働ありきの安全判断を批判するのであれば、脱原発ありきの主張についても自制すべきではないか。
読売新聞は、科学的見地から原発の安全性を審査するという設立趣旨を踏まえ、規制委の見解は理解できると評価している。一方政府が、再稼働判断や、最も困難な地元の説得を避けようとしている姿勢は無責任だと断じた。首相官邸や経済産業省などが再稼働にどう関与するか不透明なことが問題であり、大飯原発再稼働判断時のように、政府が責任をもって進めるべきだと主張した。野田首相が「国民生活や経済への影響を勘案し、政府が最終的に責任を持って判断する」と述べたことを取り上げ、再稼働判断を迫る姿勢だ。
なお、唐突にストレステストを持ち出し、定期検査を終えた原発の再稼働を認めなかった菅政権の判断も批判している。
産経新聞も読売新聞同様、野田首相の「責任をもって判断」というコメントをひき、政府が再稼働に責任を持てと主張している。更に踏み込み、旧原子力安全・保安院のストレステストで北海道泊原発が「おおむね妥当」と評価されたことを参考に、暫定基準での早期稼働も検討すべきだと主張した。
朝日新聞
再稼働の是非―政治は丸投げするな(10月5日)
読売新聞
原発再稼働判断 政府の責任回避は許されない(10月5日付・読売社説)
産経新聞
原発の再稼働 責任放棄の政府は不要だ(10月11日)