なぜ日本では起業家が育たないのか? 英米メディアの指摘する問題点とは

 企業活動が国家経済に与える影響について調べる「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)」によれば、2014年に「起業はキャリアにおける良い選択だ」と答えた日本人は31%と、最下位から2番目だった。アメリカ65%、中国66%、オランダ79%などと比べると、途方もない出遅れ感がある。政府が経済回復のため新規ビジネス立ち上げを奨励しているにもかかわらず、なぜ起業家が増えないのか。英米メディアが日本特有の問題点を指摘している。

◆リスク回避志向、終身雇用が妨げに
 起業が難しい理由としてまず挙げられるのが日本人のリスク嫌いだ。ワシントン・ポスト紙(WP)は、日本では大企業での安定と終身雇用という「ジャパニーズ・ドリーム」と起業は相いれないものだとし、起業を口にすれば、おそらく親や配偶者からストップがかかると述べる。ブルームバーグも、起業をためらう気持ちは安定と成功を重んじて体制に従う文化から来るものだと述べる。前出のGEMの調査でも日本人起業家予備軍の55%が「失敗が怖い」と回答しており、調査参加国のなかで上から2番目に高い数字だったとしている。

 エコノミスト誌は、柔軟性のない労働市場が、起業の邪魔になっていると述べる。少しずつ緩和されてはいるものの、日本ではまだまだ終身雇用が望まれ、転職が盛んとは言えず、スタートアップ企業にとっては中間レベルの即戦力確保は難しく、新人ばかりで事業を始めることになると指摘。さらに、従業員の解雇が難しいことも、成長途中のスタートアップには厳しいと述べる。もっとも、女性は職場での昇進が困難で失うものも少ないため、起業して成功するケースも多いと同誌は説明している。

◆政府や投資家の古い考え方も起業の障害に
 WPは、起業家精神を育てることは「アベノミクス」の経済復興の鍵となる部分であり、政府はベンチャーキャピタルやスタートアップの加速を「第三の矢」の一部としているが、期待通りには進んでいない、と指摘。徐々に環境は改善しつつあるが、日本では投資家がリスクを嫌い要求も多く、1万ドルの代わりに20~30%の株式を求めるケースもあり欲深いと同紙は述べる。シリコンバレーでは多くの人々が新しいものにアグレッシブに投資を行い、より少ない見返りで多額の資金を出してくれるという。

 ブルームバーグは、日本の古いビジネス習慣も障害だと指摘し、銀行は貸付に担保を取ることに執着するが、ほとんどのスタートアップにそんなものはないと述べる。WPは、登記にかかる手続きが煩雑で、悪名高い官僚主義の弊害だとする。さらに、ブルームバーグは、政府と金融機関は既存の会社を保護する傾向にあり、非効率な「ゾンビ」企業を生かすことで、未来ある若い会社に資金が回らなくなっていると断じる。これは、経済に新しい血を入れるために必要な「創造的破壊」がなされていないことを意味し、実際、日本の労働人口のうちわずか3.8%が新規ビジネスを立ち上げる、もしくは創業から3年半以内の会社を経営していることがGEMの調査でわかっている。この数字は南米の小国スリナムを除けば、調査参加国中最低レベルで、ほとんどの日本人は古い企業で働いていることになる。OECDの調査によれば、世界的には古い企業より新しい企業のほうが雇用創出に貢献しており、今のままでは日本が生産性の面で他国との差を埋めるのは難しいとしている。

◆実はポテンシャルあり?規制撤廃がカギ
 エコノミスト誌は、日本政府は起業の障害になる多くの規制を廃止するべきだと主張。C to Cビジネス(一般消費者同志の商取引)が日本では最も可能性があるのに、ウーバーやAirbnbが普通に営業できないのは恥ずかしいと述べるメルカリ創業者の石塚亮氏のコメントを紹介している。

 もっとも同誌は、起業環境の改善も見られるとしており、今が日本にとって問題に取り組むよい時期だと述べる。GEMの調査によれば、起業に意欲を示す日本人は全体としては少ないが、起業する能力が自分にはあると信じる人が実際に会社を起こす割合は、日本が19.5%でアメリカの17.4%を上回っており、日本にはまだ可能性があると同誌は見ている。

Text by 山川 真智子