Chrome OS大躍進の年になるか? 米国で初めてMac OS抜く 年内にAndroidアプリ対応
Google製OSといえば、主にモバイル向けのAndroidが有名だが、もう1つ、Chrome OSというものがあり、こちらは主に安価なノートパソコンで使用されている。日本での普及度はまだ低いが、アメリカではこのChrome OSを搭載したノートパソコンChromebookの出荷台数が伸びている。米IT専門調査会社IDCによれば、今年1~3月期、米国内でのChrome OS搭載機の出荷台数が初めてAppleのMacシリーズを上回ったそうだ。さらに、Google Playで提供されるAndroidアプリが、年内にChrome OS搭載機でも使用可能になるとの発表があり、これがChromebookの普及を後押ししそうだ。
◆ひそかに売れている? Chromebook
Chrome OSは、Googleが2009年に初めて発表したもので、Androidと同じくLinuxカーネルが採用されている。2011年にはChromebookの最初の機種が発売された。
Chrome OSの特徴は、GoogleのブラウザChromeによるウェブブラウジングとウェブアプリの利用を中心的用途としていることだ(オフラインで動作するアプリも存在する)。そのため一般に搭載機にさほど高いスペックが要求されない。ガーディアン紙は、このOSはパソコンから枝葉を取り除き、ウェブブラウザに小容量の記憶装置を備えただけのものにする、と語る。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)のテクノロジー担当コラムニスト、クリストファー・ミムズ氏によると、比較的非力なハードであっても高速に動作し、そのためまずまずのChromebookでも300ドル(3.2万円)以下で購入可能だという。
パソコン向けOSとしての存在感は、Windows、Mac(OS X)に比べると今のところまだ薄い。IDCのLinn Huang調査ディレクターによれば、Chrome OS搭載機がパソコン販売台数に占める割合はまだ、アメリカで10%、全世界で2.5%でしかないとWSJは伝えている。しかしIDCは今年、Chrome OS搭載機の販売台数は30%近く増加すると予測しており、これはパソコン市場全体の伸び率を大きく上回るという。
そしてHuang氏がThe Vergeに語ったところによれば、今年の1~3月期、Chrome OS搭載機(Chromebook)が米国内での出荷台数で初めてMacシリーズを上回ったそうだ。なおChromebookの出荷台数は明言されていないが、Macの出荷台数のほうはおよそ176万台だったとのことだ。
この辺の事情について各メディアは、Chrome OSは長い間、着外馬としてあざけられてきたが、Windows、Macにいつの間にか近づいてきた(WSJ)、最新のデータによればGoogleはひそかにパソコン販売の重要勢力になっている(ガーディアン紙)、と述べている。
The Vergeやガーディアン紙は、Mac ではなくWindows搭載機がメインのライバルになるとみている。The Vergeは、Chromebookは、低価格ノートパソコン市場におけるMicrosoftの支配的立場に挑戦するのに良い位置に着けている、と語っている。
◆アメリカでは学校での採用が増加
アメリカでChromebookのセールスが強いのは、教育現場での普及が進んでいるという特有の事情がある。CNETによると、Chromebookは、学校に新規導入されたデバイスの50%以上を占めているそうである。IDCのHuang氏はThe Vergeに「Chromebookは今なお主としてアメリカのK-12(幼稚園から高校までの教育期間)ストーリーである」と語っているが、The Vergeはこれに関して、Chromebookはアメリカの学校で特に広く使われており、コメントからして、その需要が米国内での出荷台数の原動力であることは明らかだ、としている。
教育現場での人気の理由について、ガーディアン紙は、低価格であることを理由としてまず挙げている。またChromebookでできることが限られていることも、欠点というよりむしろ肯定的な側面とみなされている、としている。他にも、Googleによると、個々のアカウントのデータをクラウド上に保管するため、生徒が共有するマシンとして向いていることや、一元管理のしやすさも売りとなっているようだ。
◆日常での使用にも十分?
WSJのミムズ氏によれば、Chrome OSは教育現場のみならず、日常での使用にもふさわしいものになっているようだ。人がパソコンでする必要のあることの大部分で、Chromeは単純に他より良い、と同氏は語っている。同氏は、2年ほど前からChromebookを試用し始め、現在は非モバイルではいつもChrome OSを使用しているそうで、自分でも驚きだと語っている。
またミムズ氏は、Chrome OSの次なるチャレンジは、Windowsが長い間支配してきたビジネス市場だとしている。Googleは、社内システム管理者が重視する機能を備えたパッケージChromebooks for Workによってこれを推進している。WSJによれば、その機能とは、VPN、シングルサインオン、デジタル認証を含むセキュリティー機能などだ。またGoogleは、ここでもやはりシステム管理者にとっての管理のしやすさを売りとしており、GoogleのChrome OS担当プロダクトマネジメントディレクターRajen Sheth氏は、一つにはChromebookは管理が容易だという理由によって成功するだろう、とWSJに語っている。
WSJによると、IDCは、2018年までに、フォーチュン500社(フォーチュン誌が毎年選ぶ米企業番付)の25%が、従業員にChromebookを支給するようになると予想しているという。だがIDCのHuang氏は、それでもChromeがビジネス界で直面している困難はかなりのものだ、とも語っている。WSJは、最大の問題の1つは単に惰性だと語り、Windowsでしか動かないアプリケーションを多くの企業が多数保有している現状に触れた。
◆年内にAndroidアプリに対応する予定
Chrome OSの需要を今後高めそうなのは、Googleが、5月に開かれた開発者向けイベントGoogle I/O 2016で、10月までにAndroidアプリをChrome OSでサポートすると発表したことである(WSJ)。ただし当初は、タッチパネルを備えた新機種での先行サポートとなるようだ(ブルームバーグ、ITmedia)。Googleが動画で公開したその時のプレゼンテーションのデモによると、アプリはオフラインでの実行が可能で、WSJは、これによってオフライン環境では限られた機能しか持たないとずっと思われてきたChromebookは、劇的にもっと有用になると語っている。
エコノミスト誌は、Chromebookに欠けている唯一のものは、Windowパソコンで使用できる20万本ほどのアプリケーションに匹敵する品ぞろえである、と語る。その上で、Chrome OS が100万本以上あるAndroidアプリに対応することで、企業、個人のコンピューター使用の世界においてMicrosoftをあれほどの支配的勢力にしてきたWindowsシリーズは、ひどく不安定に見えだす可能性がある、としている。
ビジネスシーンでは、今でもMicrosoftのOfficeが大きく幅を利かせている。WSJは、MicrosoftのAndroidタブレット向けのOfficeなどをオフラインで使用できるようになることは、そのようなソフトウェアに頼っているユーザーにとって重要となるだろう、と語っている(なお現在Chrome OSにはMicrosoft Officeの代替アプリがある他、Microsoft がウェブ上で提供するOffice Onlineを使用するという方法もある)。ただしITmediaによると、ユーザーがGoogle Play上のアプリをChromebookに直接ダウンロード/利用できるようになるには開発者側の対応が必要とのことで、MicrosoftがChrome OSにOfficeを対応させるかどうかは今のところ未知数だ。
かつてはスマホ上でパソコンと同じアプリが使えることが大きなアピールとなったが、今はむしろ、反対に、パソコンでスマホと同じアプリが使用したいと感じる機会のほうが増えているのではないか。Chromebookはその点で大きなアドバンテージを得そうだ。